◆環境・防災◆  小 型 セ ン サ で 環 境 ホ ル モ ン の 分 析 を 迅 速 に
 人間のつくり出した合成化学物質はおよそ10万種とも言われ,ヒトを含めた生物の生殖系へ与える影響が懸念される。しかしながら,それらの作用機序,生物活性,生態系への影響については,そのほとんどが未解明のままであり,一刻も早い科学的なリスク評価が求められる。本研究では,内分泌撹乱物質のうち生体内で女性ホルモンと同じ働きをする化学物質を,選択的に検出するセンサを開発した。本センサは,小型,迅速かつ細胞系を必要としない,という特徴を併せもつので,迅速な検出系として分析の全自動化への応用が期待される。
【1D23】  エストロゲンレセプターを認識素子とする内分泌撹乱物質センサの開発

  (九大院工1・NEDO2)○村田 正治1,2・福間 香織1・中山 正道1・片山 佳樹1・前田 瑞夫1
    [連絡者:村田 正治]

 今世紀に開発された膨大な種類の合成化学物質は単に科学技術の進歩に寄与したのみならず、食糧増産や医療技術の向上を通じて文化や人々のライフスタイルに多大な変革をもたらした。この間に市場に投入された化学物質はおよそ10万種といわれており、近年の用途の多様化・細分化にともなって今後益々その数が増えてゆくことは疑う余地がない。しかしこれら近代文明を支えてきた化学物質の中に、ヒトを含めた生物の生殖系への影響が懸念されている化学物質の存在が明らかとなってきた。内分泌撹乱物質(環境ホルモン)とよばれるこれら一群の化学物質は、その作用機序や生物活性、さらには生態系に対する影響などについて殆ど解明されておらず未だ仮説の域を出ていない点も多い。しかしながらこのような情報の不確かさ故に民衆の不安を一層かき立てる結果を招いており、一刻も早い科学的リスクアセスメントが必要とされている。
 本研究ではこれら内分泌撹乱物質の中、生体内で女性ホルモン(エストロゲン)と同じ働きを行う化学物質を特異的に検出するセンサの開発を行った。性ホルモンの一種であるエストロゲンは、細胞核内に存在するその受容体(エストロゲンレセプター)と結合することによって、生殖に関わる様々な遺伝子発現を制御している。そこで我々は大腸菌を使ってヒトエストロゲンレセプターを大量合成させ、これを電極表面上に固定化することに成功した。このエストロゲンレセプター固定化電極に女性ホルモン(17b-エストラジオール)を作用させたところ、添加濃度に依存して特異的に応答することが明らかとなった。その応答原理はホルモンとの結合により誘起されるレセプターの立体構造変化に起因することが示唆された。本センサはこれまでにない小型、高速、なおかつ無細胞の検出系であり、ハイスループット化に際して極めて有利である。将来的には環境モニタリング法として応用し、化学物質の総合的なリスクコミュニケーションに貢献したい。