◆環境・防災◆     土 の 中 の 放 射 能 は 何 を 語 る
 土の中には色々な放射性元素が含まれている。北海道大学の構内で,地震センサーの設置を目的として,地下深部まで掘削したとき得られた土壌コアを使って,表層から深さ160cmまでの土に含まれる放射性のカリウム(40K)とラジウム(226Ra)の分布を調べた。水に溶けやすいカリウムと溶けにくいラジウムとでは,洪水や大雨の作用で土の中における分布の仕方が大きく異なっていた。このような情報から,土壌汚染物質の動きについても知見が得られることから,放射性元素を追跡することにより土壌環境の変遷をたどることが期待できる。
【1D09】         土壌中のK-40およびRa-226の分布
                            
    (北大院工)○藤吉亮子・澤村貞史「連絡者:藤吉亮子」

 土壌にはウランおよびトリウム系列核種等さまざまな天然放射性核種が含まれ、その多くは半減期が長いために地球の誕生以来現在に至るまで消滅することなく存在し続けている。このような天然放射性核種の土壌中での空間的・時間的分布を明らかにすることは、陸上生物の生存場におけるバックグラウンド放射能および放射線の空間率分布を知るために必要な情報を提供するのみでなく、環境に放出された種々の汚染物質のゆくえを明らかにするために“土壌がどの程度不均質であるか”を評価しうるという点で重要である。
 本研究では土壌中に存在する天然放射性核種のうち、 ? 線を放出するK-40(半減期1.28×109y)およびRa-226(半減期1.60×103 y)に注目し、それらの放射能濃度を測定することにより土壌の深さや土壌特性との関係を考察した。北海道大学構内において、地震センサーの設置を目的として2000年12月から2001年2月にかけて掘削した深さ750 mのコアのうち表層部分(0-160 cm)を堆積層位の違いに注意して採取した。土壌採取地点の地質は琴似川-発寒川からもたらされた扇状地堆積物であり、粘土・シルト層および砂礫層が交互に堆積したものである。
 近接した二地点におけるK-40およびRa-226の放射能濃度は土壌の深さに対してきわめて異なるパターンを示した(図)。また、0-100 cmまでの各深さにおける土壌水分とK-40の放射能濃度との間には負の相関関係が存在し、土壌に含まれる水が多いほどK-40の放射能濃度の低いことが明らかになった。すなわち、深さ70 cm付近で観測されたK-40放射能濃度の極小値は、洪水や大雨、あるいは地下水等の作用により土壌に含まれるカリウムの流出が起こったことを示唆しているものと推察される。一方、カリウムに比較して水への溶解性の低いラジウムは、水の作用により破砕物として移動したためその放射能濃度が大きく変動する原因になったものと考えられる。物理化学的特性の異なるこれら天然放射性核種の分布を、表層における水平分布のみでなく土壌深さ方向に関して検討することは、土壌環境の変遷を明らかにする上で有用であることが示唆された。