◆新素材・    無重力下でレーザー光を当てると光圧力で微粒子が泳動
 先端技術◆
 溶液中の微粒子にレーザー光を照射すると,その光圧力で微粒子が泳動する。泳動速度は微粒子の性質によって決まるため,微粒子の物性の測定や分離法としての応用が期待される。しかし,重力の存在下では,光吸収性がある試料では発熱による対流が起こったり,微粒子それ自身の質量や浮力が泳動速度に大きく影響を及ぼす。そのため落下実験施設や航空機を利用して重力の影響を取り除き,光泳動力のみによる測定を行ったところ,ステンレスやガラスなどの高密度微粒子の光泳動が初めて観測できた。又,光学的性質と泳動速度に関しても新たな知見が得られた。
【1C01】        微小重力下における高密度微粒子のレーザー光泳動

            (阪大院理)○文珠四郎 秀昭・玉川 美典・渡會 仁 
             [連絡者:渡會 仁]

 微粒子に光を照射すると光は反射、吸収、散乱される。このとき粒子は光からその進行方向に向かう力を受ける。通常の光ではこの力は小さすぎて粒子を移動(泳動)させることはできないが、レーザー光を用いることにより、マイクロメートルレベルの粒子を泳動させることが可能になる(これをレーザー光泳動という)。私たちはこれまでに、このレーザー光泳動が単一微粒子の物性解析法、及び分離法として利用できることを示し、様々な性質をもつ液中の微粒子について光泳動速度の測定を行ってきた。しかし、重力の存在下では微粒子は常にそれ自身の質量や浮力の影響を受け、また、光吸収性の試料に関しては、レーザー照射により熱の発生が起こり、媒体の対流が生じるため溶媒と密度の異なる微粒子について精密に光泳動速度を求めることはできなかった。
 本研究では、重力の影響を除くため落下実験施設や航空機を利用した微小重力環境下でレーザー光泳動実験を行った。その結果、これまで実験室系では光泳動が観測できなかったステンレスやガラスなどの高密度の微粒子の光泳動を初めて観測することができた。また、これらの微粒子の光泳動速度を解析したところ、光を吸収する炭素球の泳動速度は非常に速く、光を反射するステンレス球の泳動速度はこれより小さく、光を透過、屈折するガラスやポリスチレン粒子の泳動速度はさらに小さいことがわかった。これらの結果を光の散乱理論と比較することにより、粒子の光学的性質と光泳動速度の関係を定式化し、光泳動力の本質を明らかにすることができる。
 レーザー光泳動の波長依存性や偏光依存性などを明らかにすることにより、微粒子のキャラクタリゼーションや分離における選択性を向上させ、宇宙の無重力環境下においても空中や液体内に浮遊する微小試料の移動・分離・操作法として利用される可能性が極めて高い。特に、電荷を持たない微粒子の非接触的近距離移動や選別には、極めて有効な技術となるに違いない。具体的には、血球や細胞の選別、細胞内の小胞体や核の移動による単一細胞の診断や治療への利用が期待できる。また、無容器の液体中において微粒子を三次元的に操作して新しいマイクロデバイスを作ることも夢ではない。
図 微小重力下での水中のステンレス球(直径11mm)のレーザー光泳動の様子 (2/3秒ごとの画像の重ね合わせ) レーザーは下方から照射している