◆環境・防災◆   自動車排出ガスの環境影響成分を高感度でリアルタイム分析
 自動車排出ガス成分である揮発性有機化合物や多環芳香族炭化水素は,極微量であっても人体や環境に影響を及ぼす。本研究では,超音速ジェット・共鳴多光子イオン化法により従来測定困難であった環境影響成分を分子種ごとに高感度でリアルタイム分析を可能にした。分子に特有の共鳴レーザー波長を用いてイオン化し,同質量の化合物でも前処理なしで,個別に高感度リアルタイム分析することができる。この方法をディーゼルエンジン排出ガスに適用したところ,ベンゼンなどの排出濃度変化を数10ppbオーダーで観測でき,運転条件の違いによる排出特性との関係もわかった。

【P2031】    超音速ジェット・共鳴多光子イオン化法による自動車排出ガス中の
     
芳香族炭化水素のリアルタイム分析

     (東工大統合院1、東工大資源研2、トヤマ3、新日鐵先端研4、交通安全環境研5)○三澤健太郎1、
     松本淳1、大和洋平2、石内俊一2、藤井正明2、田中康一3、中川潤3、遠藤克己3、林俊一4、
     須崎光太郎5、山田裕之5、後藤雄一5 
     [連絡者:藤井正明、電話:045-924-5250]

 自動車などの燃焼排出ガス中には揮発性有機化合物(VOC)や多環芳香族炭化水素(PAH)など極微量であっても人体や環境に大きな影響を及ぼす化合物が多種混在している。これらの化合物の人体への影響力はそれぞれ異なり、また排出量やその組成は走行条件によって時々刻々と変化するため、これらの化合物の中から有害な化合物のみを選択的にしかもリアルタイムで分析する必要がある。しかし、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)やガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)などの従来の分析方法では低濃度の成分を分子種ごとにリアルタイム分析することは不可能であった。そこで我々は、超音速ジェット・共鳴多光子イオン化(Jet-REMPI)法を用いた高感度分子選択的リアルタイム分析装置を開発した。この方法はレーザーイオン化法の一種であり、それぞれの分子に特有の共鳴波長を用いて分子選択的なイオン化が可能である。これにより、適切なレーザー波長を選択することで化学的な前処理を一切行うことなく同質量の化合物であっても個別に高感度リアルタイム分析が実現できる。
 
本研究では、この装置を用いてシャシーダイナモメータ上を走行しているディーゼルトラック排出ガス中の芳香族炭化水素のリアルタイム分析を行った。ディーゼルトラックをシャシーダイナモメータ上で走行させ、その排出ガスをマフラー部配管より取り出し加熱配管を通して分析装置内へ導入した。測定したディーゼルトラック排出ガス中のベンゼン、ナフタレン、フェノール濃度のリアルタイム変動を図に示す。各化合物について運転条件の変化に伴う数10ppbオーダーの排出濃度変化が観測された。また、それぞれの化合物で運転条件の変化に応じた排出特性が異なることがわかった。このことから、排出ガス中の炭化水素を炭化水素総量(THC)として測定するだけではなく、各化合物の排出量変動を個別に測定することが必要だと考えられる。
 
また、有害環境負荷物質排出抑制に優れた性能を持つ次世代のディーゼルエンジンの開発への応用にも重要な役割を担えると考えている。