◆医療・生命◆     テラヘルツ波で医薬品を評価する
 テラヘルツ(THz)領域の電磁波は,人体への影響が少なく半透過的であることから,様々な分野での応用が実用化されつつある。特に製薬及び化学分野では結晶形の違いの識別に加え,医薬品源薬や不法薬物において特徴的な波形が観察されることから新たな分析法として注目されている。本研究では,光学活性化合物の識別について光学異性体を含むアミノ酸であるロイシンの結晶作製条件の違いによる試料を用いて検討したところ,結晶構造の違いでテラヘルツスペクトルが変化することを確認した。今後は,光学純度の測定や,医薬品の安定性などの品質評価への応用が期待される。 

【P2019】     テラヘルツ波を用いた医薬品評価技術の開発に関する研究 I.

      (国立衛研薬品部・東北大院工1・首都大研究戦略セ2)○坂本知昭・
      田邉匡生1・佐々木哲朗2・小山 裕1・西澤潤一2・川西 徹・檜山行雄
     [連絡者:坂本知昭,電話03-3700-1141]

 テラヘルツ(THz)波領域(100GHz-10THz,3cm-1-333cm-1)の電磁波は,人体への影響は少なく,半透過的であることから,空港等での危険物や爆発物の検知などのセキュリティー分野や体組織中の腫瘍などを映像化するT-ray可視化技術への応用など医療分野において実用化されつつある.製薬・化学分野においては,水素結合などの弱い分子間エネルギーや結晶格子のフォノン振動などを検出する特性を利用した結晶形の変化の識別や,医薬品原薬や不法薬物などの特徴的な波形の検出が報告されており,指紋的波形を用いた定性・定量分析への応用が期待されている.しかしながら,スペクトルの解釈など未知の部分も多く,分析手法の確立に向けて検討課題が積み重なっている.
本研究は薬効にも影響する光学活性化合物の識別性について検討したものである.THz波によるラセミ化合物の識別は可能であるが,個々の光学異性体の識別手法は具体的には実現されていない.そこでアミノ酸であるロイシンの結晶作製条件に起因するTHz波形の違いに着目し,光学異性体を含む結晶構造の識別を試みた.図ではL体,D体50%ずつの混合試料と混晶試料(再結晶)のTHzスペクトル(167cm-1-33cm-1 (1Hz-5Hz))を示したが,再結晶試料では混合試料と比べて吸収の幅が狭くなり,吸収極小ピークが低波数側にシフトしていることが観察され,混晶形成による結晶構造の違いがスペクトルのシフトと関連することが示唆された.更に光学純度を定量的に測定できる可能性も示唆された.以上の成果は,THz波による光学純度測定への可能性を示すとともに,有効性,安全性など光学活性医薬品の品質評価へのTHz波の適用可能性を示すものであった.