◆環境・防災◆     中国から飛来した黄砂を粒径別に調べる
 中国から飛来してくる黄砂は,日本においてもさまざまな環境問題を引き起こしている。特に粒径の小さいものは,肺の奥深くまで侵入してさまざまな障害を起こす可能性がある。また,中国の工業地帯上空を通過時に重金属や硫黄酸化物などの汚染物質を吸着し,日本に運んでくることも考えられる。本研究では,黄砂を定期的に粒径別に捕集して蛍光X線分析法による元素分析やX線回折法による鉱物分析を行った。その結果,黄砂の鉱物組成が粒径によらないことなどの基礎的な知見が得られた。今後の黄砂被害の拡大を防ぐためにも黄砂の継続的分析が必要である。

【P1007】       黄砂の粒径別X線回折分析

            (明大理工) ○大前一樹・小俣貴寛・北野大・中村利廣
            [連絡者:中村利廣, 電話:044-934-7208]

 近年、中国などにおいて被害が急激に拡大している黄砂は、東側近隣国の共通関心事項にもなっており、早急に対応すべき課題である。黄砂は中国大陸内陸部のタクラマカン砂漠やゴビ砂漠、黄土地帯で、低気圧の発生などにより数千メートルの高層にまで巻き上げられた土壌粒子が偏西風に乗って飛来し、空を黄色に彩る東アジア地域特有の降塵現象である。黄砂は粒径の幅が広く 0.5〜0.001 mm で、そのうち日本に到達するものは粒径 10 mm 以下の浮遊粒子状物質が多く、肺などの呼吸器の奥深くに侵入して、人体へ悪影響を及ぼす可能性があることが懸念されている。また、日本に到達する黄砂は中国工業地帯上空を通過するために重金属、SOx、NOxなどを吸着しているという報告もある。単に粉塵量、元素組成の測定だけではなくその存在状態も把握する必要がある。そこでこの研究では、黄砂を粒径別に捕集し、蛍光X線分析法で元素分析を、X線回折法により結晶相の定性分析を行ったので報告する。
 ハイボリュームエアサンプラーの前面に径の異なるノズルをもった3層のカスケードインパクターを取り付け、慣性衝突により捕集したものについて分析した。蛍光X線分析では定期捕集した大気粉塵の全てのステージで Na, Mg, Si, P, S, Cl, K, Ca, Fe が検出され、黄砂時では各ステージの元素組成に差が少なく、黄砂が幅広い粒径分布を持っていてCa, Al 含有量が高いことがわかった。また、粗粒子にはHalite由来のNa, Cl、微細粒子にはSがやや多かった。回折図形上からはQuartz, Gypsum, Halite, Plagioclase, Koktaite, Calcite, Clinochlore が同定できた。各ステージの回折図形に変化はみとめられず
、黄砂の結晶相が粒径によらないことがわかった。

 黄砂は現在進行形の環境問題であり、今後も黄砂の被害が拡大することが考えられ、継続的な研究と、黄砂が人体に与える影響の理解の一助となることを望む。