◆新素材・      人体の組織新生を観察する生体内観察カメラの開発
 先端技術◆

 近年,再生医療に向けての細胞培養や臓器構築の研究が精力的に行われている。これは,自分の細胞から新たな組織を体外で構築し「自家移植」できれば,ドナー,倫理や拒絶反応などの問題解決に繋がるからである。心臓,肝臓,筋肉などの3次元的な組織増殖を行うには血管を含む複数種の細胞がどのように協調して増殖するかの確認が不可欠である。この観察を可能にするためスキャンホールドと呼ばれる細胞親和性の高いシートをビデオカメラで観察できるモジュールを試作した。このモジュールをヤギの筋肉組織に埋め込み,観察評価したところ毛細血管や細動脈の成長を確認できた。

【?b2004】       生体内に埋め込み可能な組織新生観察カメラの試作

( 東大大学院・医1、東大先端研2、神奈川科学技術アカデミー3、大阪工大4 )
杉野礼佳1、井上雄介1、中川英元2、斎藤逸郎2、西山勇一3
逸見千寿香3、中村真人3、望月修一4、鎮西恒雄2、阿部裕輔1
[連絡者:中川英元]

 近年再生医療に向けての細胞培養や臓器構築の研究が精力的に行われています。他人の臓器を移植する「同種移植」は絶対的にドナーが不足している、臓器売買等の倫理的な問題が発生する、拒絶反応を抑制する免疫抑制剤を使い続ける等の問題がありますが、自分の細胞から新たな組織を体外で構築し、「自家移植」できればこれらの問題を解決できるからです。実際皮膚を形作る表皮細胞などは大量培養されて熱傷患者の治療などに使われています。しかし従来の培養技術では単一種類細胞の平面的な増殖が中心で、心臓や肝臓、筋肉組織等を構築することは不可能です。これらの組織は複数種の細胞が協調して働く上、血管を通して酸素や栄養分を3次元的に細胞に供給しているため、培養液中で2次元的増殖する細胞に表面から養分を供給する従来の培養法では対応できません。3次元的な組織増殖を行うには血管を含む複数種の細胞がどのように協調して増殖していくかを確認することが不可欠です。そこでスキャホールドと呼ばれる細胞親和性の高いシートをビデオカメラで観察できるモジュールを試作し、ヤギの筋肉組織中に埋め込み、筋肉組織がスキャホールドに進入する様子を観察しました。左下が体内埋め込み用のカメラモジュールで、防水のためエポキシモールドされています。右下は埋め込み後30日後の様子で、中央左の白い縦すじ部分はスキャホールドのままですが、左右から筋肉組織が進入してきて組織先端(白い縦すじの両側)に毛細血管が集中し、その後部に細動脈が成長していることが分かります。