◆新素材・      発がん性を光で調べる新チップ
 先端技術◆

 化学物質の発がん性を調べるための変異原性試験は重要であるが、無菌設備を要する長時間の試験法という問題があった。本研究グループは、微生物を用いる変異原性試験を迅速・簡便に行うことのできる小型チップを開発した。変異原物質によって誘発される発光反応の触媒タンパク質を発現する大腸菌株を構築して、チップ上の直交する流路にそれぞれ複数種の試験菌および変異原物質を導入することで、掛け合わせたすべての組み合せの試験を一組のチップで行うことを可能とした。本研究では更に、代謝活性化されて変異原性を示す物質(前変異原物質)への対応に成功した。

H3026*】       代謝活性化した変異原物質の生物発光オンチップバイオアッセイ

(北大院工) ○目谷可奈子・前花浩志・谷 博文・石田晃彦・上舘民夫
[連絡者:谷 博文,電話:011-706-6743]

 生活環境中に存在する様々な発がん性物質の多くはDNAに損傷を与え,突然変異を引き起こすことから,発がん性と変異原性には強い相関があることが知られている。そのため,化学物質の変異原性を調べる分析方法が提案されている。例えば,大腸菌のDNA損傷に伴う修復機構(SOS応答)を利用した変異原性試験はその一つである。こうした生物学的な応答を利用する方法(バイオアッセイ)は,より正確な毒性評価が可能となる反面,無菌設備を必要とし,また培養や発現誘導などに時間を要する,といった問題がある。我々は,迅速かつ簡便なバイオアッセイを可能にする小型チップを用いる方法 −オンチップバイオアッセイを提案してきた。これまでに,変異原物質によって誘発されるSOS応答に伴いルシフェラーゼという発光触媒タンパク質を発現する大腸菌株を構築し,オンチップバイオアッセイに応用した。この方法では,多数の微細貫通孔をアレイ状に配置した基板に,これを挟み込むように複数の微小流路を有する2枚のチップが貼り合わされており,それぞれのチップ上の流路は微細貫通孔を介して直交・連結している。一方の流路チップから,貫通孔内部に複数種の試験菌を導入・固定化したのち,別の流路チップから変異原物質を含む試料を導入することで,複数の試料と複数種の試験菌を掛け合わせた全ての組み合わせのバイオアッセイを一組のチップで行うことが可能となった。
 本研究では,代謝活性化されてはじめて変異原性を示す物質(前変異原物質)に対応するためにラット肝臓抽出物(S9mix)で処理した試料についてオンチップバイオアッセイを試みた。Trp-P-2という物質を対象に検討したところ,Trp-P-2の濃度に依存した大腸菌からの発光をチップ上で一斉に観測でき,変異原物質だけでなく前変異原物質もオンチップで検出できることを明らかにした。今後は,この代謝活性化処理もチップ上で行うことを検討していく予定である。