◆医療・生命◆ ヘアケア商品開発に役立つ新規なツールの開発

細胞膜の構成要素で、生理活性物質でもあるセラミドは毛髪の形成過程に関与している可能性がある。しかし、これまで毛髪中に含まれる多種のセラミドを網羅的に解析することは困難であった。そこで本研究では液体クロマトグラフィー・質量分析計を用いて毛髪に含まれる多種のセラミドを同時に分析する方法を開発した。すなわち,試料を大気圧化学イオン化する際のイオン化条件を最適化することにより、ヒト毛髪中の 73 種類のセラミドの検出とその分布解析にはじめて成功した。本法はヒト毛髪のセラミドの役割を明らかにするための有用なツールになると期待される。

E1018】 逆相グラジエントLC-APCI-MSを用いたヒト毛髪中のセラミド分子の網羅プロファイリング

(花王株式会社・栃木研究所)  ○辻村久・増川克典
[連絡者:増川 克典,電話:0285-68-7416]

 細胞膜の構成要素であるセラミド(CERs)は、細胞膜の物質透過性等の物理化学的性質に関与するのみならず、アポトーシスや細胞分化等の役割を有する生理活性脂質である。ヒト毛髪においても、バリア機能や保水機能に関与する一方、毛髪形成過程(角化過程)に関与している可能性が考えられる。しかしながら、スフィンゴシン含有CERsを主要な構成要素とする通常のヒト組織と異なり、毛髪では主にジヒドロスフィンゴシン含有CERsから成るため、既存のCERs分析法により、毛髪に含まれる多種のCERsを網羅的に解析することは困難であった。
 本研究は、近年リピドミクスにおいて注目されている液体クロマトグラフ−質量分析計(LC-MS)を用いて、CERsの分子関連イオン及びスフィンゴイド関連イオンを同時に観測できる2チャンネルモニタリングにより、ヒト毛髪中の73種CERsを網羅プロファイリングできる方法を開発したものである。ヒト毛髪に73種もの多種のCER分子が存在することを見出したのは本研究が初めてであった。本法開発のポイントは、異なるインソース衝突誘起解離条件にて分子関連イオン及びスフィンゴイド関連イオンを特徴的に観測できる正イオンの大気圧化学イオン化(APCI)-MS条件を最適化したことである。本法は、ヒト毛髪のCERsの役割を明らかにするツールとして有用であり、QOL向上のためのヘアケア商品開発へ役立つであろう。