◆医療・生命◆ 高感度かつ簡便な尿潜血分析法の開発

尿中の糖、蛋白や鮮血を高感度にその場で検査できる簡易分析法の開発は、在宅での健康管理や、検査の必要性が生じた際に被検者がその場で行う検査(Point of Care Testing, POCT)のための方法として強く望まれている。このために本研究では、分析チップ型のマイクロフローインジェクション分析法の開発を行っている。この方法の特徴は、測定対象物質を選択的に捕集・濃縮するための前処理部をオンチップ化し、尿検査用分析チップを高感度化した点にある。すでに尿糖分析の高感度化に成功しているが、今回は同手法を用いた尿潜血であるヘモグロビンの高感度検出を行ったものである。

P3095】  マイクロフローインジェクション分析法を用いた高感度な尿潜血分析システムの開発

(北九州産業学術推進機構1・北九州市大国際環境工2)○的場知子1・西浜章平2・吉塚和治2
[連絡者:西浜章平, 電話:093-695-3283]

 医療や福祉の質の向上には、医療現場や在宅における迅速かつ適切な診療や健康管理などが必須となってきている。このため、検査の必要性が生じたとき、被検者がいるその場で行う検査(Point Of Care Testing, POCT)や、在宅での健康管理のための、小型で低廉な分析システムの開発が望まれている。一方で近年、各種の化学反応場を模倣した数センチメートル角のチップ(Lab-on-Chip)を利用したマイクロ分析システム(μTAS)に関する研究が盛んに行われている。特に、溶液系での流れ分析の一つであるフローインジェクション分析法(FIA)は、各種の検出システムをオン・チップ化することが容易であり、μFIA法として幅広く利用されている。しかし、分析システムの感度や選択性を重視する場合には、大型で高価な検出部を利用することが多く、真に小型で低廉でかつ高性能な分析システムは達成されているとは言い難い。
 我々は、POCTや健康管理を目的として、μFIA法を利用した尿糖・尿タンパク・潜血の同時分析システムについて研究を進めている。ここでは、小型で低廉な分析システムを目的としているため、簡便な検出システムの一つである吸光光度法を利用しているが、その弱点として、選択性が低く分析阻害を受けやすいため、尿のような多成分系には適さない。例えば、尿糖分析の場合では、糖のみを含む水溶液をサンプルとして用いた場合は、高感度で定量することが可能であったが、尿をサンプルとして用いた場合は、尿中の他の成分による分析阻害が進行し、正確な定量が不可能であった。この場合、図のように分析チップ上に、前処理部としての糖の吸着分離システムをオン・チップ化し、尿から糖のみを分離・濃縮した後に分析することで、尿中の糖濃度を正確に定量することが可能となった[1]。
 本研究では、このような尿分析システムの開発の一環として、μFIA法を用いた尿潜血分析システムについて検討を行った。血液中に含まれるヘモグロビンの吸光度を測定することで、潜血の定量が可能となった。しかし、分析感度が低く、尿分析システムとして利用するためには、さらに低濃度のヘモグロビンを定量する必要がある。本研究では、尿糖分析の場合と同様に、分析チップ上に吸着システムをオン・チップ化し、前処理としての濃縮操作をオンライン化する手法について検討を進めている。
 従来、分析システムを高機能化するためには、前処理工程を増やす、あるいは高機能な検出システムを利用する必要があったが、本研究で進めているように、前処理部をオンライン化することが可能になれば、感度の低い検出システムを利用しながらも多機能で高性能な分析システムを構築することが可能となるものと期待される。

[1] Anal. Sci., 22, 99-103 (2005)

図 吸着部をオンライン化したFIAシステムの模式図