◆生活文化・     辰砂の微量元素組成から古代の朱顔料の産地を探る
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水銀鉱石である赤色の辰砂(硫化水銀)は、朱と呼ばれ古くから顔料として用いられてきた。古墳などの遺跡や遺構で多く出土することから、古代では特別な意味を持っていたと考えられる。これらの辰砂がどこで採取されたものかを明らかにすることは、当時の文化的・宗教的背景を理解するうえで興味がもたれる。本研究では、各地域から産出された天然の辰砂に含まれる微量元素組成を明らかにし、各地域の特性化を行った。その結果、As、Se、Sr、Cd、Sb の微量元素組成に大きな差が見いだされた。これらを指紋情報として利用することにより、古墳で出土する朱の産地推定が期待される。

I3018】      天然の辰砂(HgS)の微量元素分析による地域差の解析及び考古学の応用;
                 古墳から出土した朱の産地推定の試み

    (東理大院工1,理研2,近畿大理工3,橿原考古学研4)○三堀陽平1,田中龍彦1,林英男1
     高橋和也2,木寺正憲2,中川孝秀2,榎本秀一2,南武志3,今津節生4 
      
[連絡者:三堀陽平,電話:048−467−9460]

 古代日本において、朱−辰砂(硫化水銀)−は貴重な顔料として神秘的な意味づけがなされていたと考えられており、実際、古墳などの遺跡や遺構に多く見受けられる。辰砂が出土する遺跡の時期は、中国から色々な風習が伝わった時期に重なり、また古代大和王朝が確立した時期でもある。こういったことから、採取された辰砂の産地が推定できれば、古代大和王朝の成り立ちなどを知る上で考古学的に興味ある情報が得られると期待される。一方、鉱物としての辰砂に関する微量元素存在度に基づいた化学的な分析はほとんどなされていないため、産地ごとの化学的特徴は把握されてこなかった。そこで本研究では、中国・北海道・奈良県・三重県・高知県・徳島県の各地域の鉱山から採取された天然の辰砂(HgS)を微量元素分析し、それらの地域差の解析を行った。
 各地域の鉱山から得られた辰砂を、およそ0.01g秤量し、これをテフロンビーカーに入れ、王水を用いてホットプレート上で熱しながら溶解させた。その後、硝酸を用いて同様の操作を行った。蒸発乾固後、2%硝酸溶液にして定容した。この溶液のおよそ5000倍希釈で約30元素の定量分析をICP−MSを用いて行い、濃度を決定する方法として検量線法を利用した。その結果、ほとんどの場合で相関係数0.999以上の良好な直線性が得られたので、この検量線を用いて各試料を分析したところ、表のように地域差が顕著に表れた元素が見つかった。このことから、微量元素存在度に基づく産地推定が可能と思われる。今後、副生鉱物などの影響を吟味しつつ、古墳出土の朱(辰砂)の分析を行い、産地推定を試みる予定である。