◆環境・防災◆  琵琶湖水中の微生物に分解されない有機物の増加は
         植物プランクトンが原因か
 本研究者のグループでは、長年、琵琶湖水中に溶けている有機物の研究を行ってきたが、有機物汚濁の指標である COD が近年増加しており、それが、微生物に分解されないようなタイプの有機物の増加と関係していることがわかってきた。また、それら難分解性有機物は、湖内の植物プランクトンによって生産されている可能性が強いことから、今回の研究では、実際にプランクトンを培養し、その増殖時の生産物と生分解生成物をゲルクロマトグラフ法を用いて分析した結果、それらの中に、問題となる難分解性有機物が生成していることが確認された。

【I1008】     琵琶湖における難分解性有機物生成に及ぼす植物プランクトンの影響

    (京工繊大院工芸1,京工繊大工芸2,京工繊大環境セ3) ○青木眞一1,木村圭一郎1
     小原慎弥2,水口裕尊3,布施泰朗3,山田 悦1、2、3 
    [連絡者::山田 悦,電話:075-724-7981]

 琵琶湖をはじめとする湖沼など閉鎖性水域では、近年微生物に分解されない難分解性有機物による汚濁の進行が認められているが、その原因物質や発生源は明らかではない。琵琶湖は、近畿1400万人の貴重な水源であるが、その水質は1984年を境として、有機物汚濁の指標であるBODの変化は小さいのに対しCODは増加しており、微生物に分解されない難分解性有機物の増加が原因と推測される。
 我々は既に琵琶湖水の溶存有機物質は、流入河川水と比較するとフミン物質よりも湖内での植物プランクトンなどによる内部生産の寄与が大きく、1984年からのCOD増加は植物プランクトンの優占種の変遷と関係があることを見出している。本研究では、難分解性有機物生成への植物プランクトンの影響を明らかにするためプランクトンを培養し、その一次生産物及び分解生成物について解析した。Microcystis(NIES-109)、Staurustrum(NIES665)及びCryptomonas(NIES-275)の3種の植物プランクトンを培養し、増殖時の生産物と生分解生成物について、COD、DOCなどを測定した。さらに、フミン物質など有機物の濃度と分子量を同時測定できる蛍光検出‐ゲルクロマトグラフ法で有機物成分を測定した。

 琵琶湖水(A)とMicrocystisの生分解物(B)のゲルクロマトグラムを図に示す。琵琶湖水ではピーク1(RT=30分)、ピーク2(RT=32分)及びピーク3(RT=35分)の3つのピークが検出され、これらは難分解性有機物であることを確認した。琵琶湖水添加によるMicrocystisの生分解実験では、ピーク2と3に加えてRT39及び50分のピークが検出され、その一次生産物にもピーク2と3のピークが検出されており、琵琶湖水中のRT32と35分に対応する難分解性有機物は、植物プランクトンの一次生産物及び生分解物の寄与が大きいと推測でき、湖水のCOD増加解明への展開が期待される。

図 琵琶湖水(A)とMicorocystisの生分解物(B)のゲルクロマトグラム