◆環境・防災◆  界面活性剤の生物濃縮度から環境汚染を探る
 ヘアーリンスの主成分である陽イオン界面活性剤(CS)は,毒性が高く生分解性が低いため,環境への影響が危惧されている。著者らが開発した高速液体クロマトグラフィー質量分析法を用いる高感度分離定量法は,河川や海水中のppb〜pptレベルのCSが定量可能である。本手法により貝内臓中に含まれるCSの量を測定したところ,摂食による影響がほとんど無い程度であるものの,海水に対する濃縮度は60000倍もの値になることが判明し,貝体内においてCSの高度な生物濃縮が起こっていることが明らかになった。

C1004】        LC/MSによる貝内臓中の陽イオン界面活性剤の分析

(日大生産工)○西垣敦子,和田祐子,齊藤和憲,渋川雅美
[連絡者:渋川雅美,電話:047-474-2554]

 ヘアーリンス等の主成分である陽イオン界面活性剤(CS)は,毒性が比較的高く生分解性が低いことから,環境への影響が危惧されている。しかし,環境中のCSの挙動については,現在十分な知見が得られていない。これまで我々は,固相抽出による前処理と親水性高分子ゲルカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)により,河川や海水中のppb〜pptレベルのCSの高感度で高選択的な分離定量法の開発に成功してきた。本研究では,これらの手法を基に,水生生物(貝内臓)中に含まれるCSの定量を試みた。
 分析対象としては,リンスの主原料として使用される頻度の高い,セチルトリメチルアンモニウムイオン(CTMA)と,トリメチルステアリルアンモニウムイオン(TMSA)を選択した。貝は,市販のアサリを用い,加熱後の内臓からCSを抽出し,さらに抽出液から固相抽出により前濃縮後,LC/MSによる定量を行った。その結果,貝内臓1gあたりのCTMA及びTMSAの存在量は,50及び400 ng (ppb)とそれぞれ見積もられた。CSの急性毒性によるヒト推定致死量は数g〜数10 gであることから,日常的に貝を食べることによる人体への毒性の影響はほぼ無いと考えられる。また,これまでの我々の研究より,環境水中のCSの存在量は,汚染の少ない河川の上流で0.1〜0.2 ppb,汚染の激しい都市部の河川ではその数十倍の1〜7 ppb,海水(湾岸)では約1/1000に希釈され0.002〜0.006 ppbであった。今回定量された貝内臓中のCS量は,海水中の濃度の約60000倍であることから,貝体内において,高度なCSの生物濃縮が起こっていることが明らかになった。