◆環境・防災◆  内分泌かく乱物質の分子の形を記憶して捕まえる
 ダイオキシンやPCB等の内分泌かく乱物質は,極微量でも我々の健康や生態系に深刻な影響を及ぼすことから高感度分析が求められている。これらの汚染物質は極微量で,多量の共存物質が存在するため,汚染物質だけを選択的に分離・濃縮することが必要であるが,その操作には多大な時間と手間を要していた。そこで目的物質を鋳型として分子の特徴的な部分を記憶させたポリマーを開発し目的物質のみの選択的な捕捉に成功した。本法により,極微量の内分泌かく乱物質の前濃縮が低コストかつ簡便・迅速化すると期待され,固相抽出媒体としての実用化が待たれる。

D1027】  内分泌攪乱物質とその関連物質の選択的分離を目的とした新規分離媒体の開発

(東北大院・環境1,京工繊大・繊維2,国環研・基盤ラボ3)○久保拓也1,細矢 憲2
佐野友春3,能町真実1,彼谷邦光1
〔連絡者:久保拓也,電話022-795-7410〕

 ダイオキシン,ポリ塩化ビフェニル(PCB)や種々の内分泌攪乱物質(環境ホルモン様物質)など,環境中には様々な汚染化学物質がある.これらの物質は,極微量でも発ガン性作用,ホルモン作用などの悪影響を及ぼす.そのため,我々が安全に生活をするためには,身の回りの水環境,大気,土壌において,これらの汚染物質がどの程度存在するのかを正確に知る必要がある.しかし,環境中には汚染物質以外にも多くの物質が存在し,それに対して汚染物質の濃度は極微量であるため,環境中の目的物質を直接分析することは非常に難しい.したがって,分析を行う前段階において,多量の夾雑物を除去し,目的の汚染物質のみをある程度選択的に分離・濃縮する技術が必要となる.ところが,既存の分析前処理技術では,目的物質に対する選択性が低い,あるいは化学的・物理的強度が低いなどの理由から,環境分析の前処理剤としては適さない.そこで,目的物質の選択的な分離・濃縮を可能にする新たな分離媒体が求められている.
 本研究では,上記問題を解決することを目的として,フラグメントインプリント法と呼ばれる手法に基づき分離媒体を調製し,分析前処理剤として適用した.フラグメントインプリント法とは,図に示すような概念であり,目的物質の特徴的な構造(三次元構造,官能基の種類など)のみを選択的に認識することによって,夾雑成分は“排除”し,目的物質のみを選択的に“捕捉”することが可能である.
 実際にこの手法用いて分離媒体を調製して,環境ホルモン様物質およびその関連物質を目的物質として評価を行った結果,目的物質に対する高い選択的認識能が見られ,さらに,実環境試料を用いた評価においても,既存の分離媒体と比較して高い性能を示した.

フラグメントインプリント法