◆医療・生命◆    細胞間の情報伝達物質を目で見る

 一酸化窒素(NO)は生体内で血管拡張作用物質,免疫系や神経系での情報伝達物質として注目されている。今回,組織を形作る細胞間における情報伝達を可視化して調べられるように,細胞外に存在し,かつ拡散せずに細胞膜上に局在することができるNOのプローブ(蛍光色素)の開発を行った。このNOのプローブを細胞膜の主たる構成成分であるリン脂質に固定することができた。そのため,このプローブは細胞膜の外側でNOと反応し,蛍光強度の上昇が観察された。今後,臨床における画像化診断への応用が期待できる。

E3019】  細胞間情報伝達物質としての一酸化窒素(NO)をモニターできる蛍光プローブの開発

(東大院薬) ○大崎隆・小島宏建・長野哲雄
[連絡者:長野哲雄、電話:03-5841-4850]

 蛍光プローブとは生体内の物質を可視化するための蛍光色素で、生体内の物質と相互作用することで、蛍光の強さや色調が変化する。蛍光プローブを生きた細胞内に入れてやれば、顕微鏡を通してその蛍光変化を観察することで、目に見えない生体物質を目に見える形にすることができる。すなわち、生命活動を生きている状態で、まさに活動が行われているその場所、その瞬間に目で見ることが可能となった。そのため、蛍光プローブは生体物質が介する細胞内情報伝達の解析に役立ち、最近では臨床における画像化診断への応用が注目され、それを目指した開発も進められている。
 さて、これまでに数多くの蛍光プローブが開発され、細胞の観察に応用されてきた。これまでに開発された蛍光プローブの多くは、細胞内に導入するか、細胞外に拡散させるかのどちらかであった。そのため、細胞内情報伝達を見ることはできたが、細胞間情報伝達の場合は拡散させた蛍光プローブでは場所を特定できず、見ることができなかった。生体において細胞は単独ではなく、組織として存在している。そのため、細胞間情報伝達は細胞内情報伝達と同様、生命活動に必須であり、それを見ることは重要である。したがって、蛍光プローブの開発においては、優れた機能をもたせるだけではなく、目的の場所に局在化させることが求められる。
 本研究では、組織を形作る細胞間における情報伝達を詳細に調べるために、細胞外に存在し、かつ拡散せずに細胞膜上に局在することができる蛍光プローブの開発を行ってきた。測定するターゲットとしては、
血管拡張作用、免疫系、神経系での情報伝達といった細胞間情報伝達物質としての生理作用を有することが報告されている一酸化窒素(NO)を選んだ。そのために、細胞膜の主たる構成成分であるリン脂質を膜へのアンカー(膜に突き刺さるデザイン)として蛍光プローブに導入した。開発したプローブは、細胞膜外側においてNOと反応し、蛍光強度の上昇が観察された。今後、脳における観察などにも応用し、実際の組織におけるNOの可視化を目指していきたい。

図 細胞間情報伝達物質としてのNOと細胞膜外局在型蛍光プローブ

 放出されたNOは標的細胞において様々な役割を果たす。また、細胞膜上においてNO蛍光プローブと反応し、その蛍光強度が上昇する。