◆医療・生命◆ 自律駆動の実現でマイクロチップ分析が身近に
 基板上の微小流路中で一連の分析操作を行うマイクロチップ分析の出現によって,試料や試薬の使用量の大幅な削減,分析時間の短縮が達成された。しかし,溶液の送液には精密制御されたポンプや電源等が不可欠であり,マイクロチップ分析を複雑で高価なものにしていた。流路基板材質の性質を巧みに利用して送液のエネルギーを蓄えることで外部ポンプを必要とせずに送液を行えるイムノアッセイ用マイクロチップを開発した。動力から切り離されたことにより,テイラーメイド医療への応用や環境分析の現場での実用化が見えてきた。

A1004】         無動力マイクロチップを用いたイムノアッセイ

(理研1・東邦大院理2)○小俣正樹1,2・佐藤香枝1・細川和生1・高橋 正2・前田瑞夫1
[連絡者:細川和生,電話:048-467-9312]

 イムノアッセイ(免疫学的測定法)は,抗体と抗原の結合を利用した化学分析法であり,医療診断や環境計測などに広く応用されている.一般的な方法では,試料体積として100 ?L,分析時間として数時間以上が必要とされてきた.近年,マイクロチップ(微細な流路を備えたチップ)を利用することにより,試料体積・分析時間ともに 1/100 程度にできることが分かってきたが,まだ広く普及しているとは言えない.問題として挙げられるのは,流路に溶液を流すための外部装置(ポンプなど)が複雑で高価なこと,およびその操作が煩雑なことである.
 理研では,外部装置を必要とせず,溶液を滴下するだけでそれを流すことができる「無動力マイクロチップ」(図1)を開発し,すでに電気泳動などに応用している.本研究は,この技術をイムノアッセイに応用したものである.モデル試料としてウサギ免疫グロブリンG(IgG)を選び,流路に以下の溶液を順次流すことにより,流路壁面上でサンドイッチ型イムノアッセイを行った:1次抗体,ブロッキング剤,ウサギIgG,蛍光標識2次抗体,洗浄液.試料体積は 1μL,分析時間は20分とした.得られた検量線を図2に示す.検出限界は0.22 nMであり,これは文献値(〜1 nM)と比較しても遜色ない.結論として,マイクロチップの利点(試料体積・分析時間・検出限界)を一切犠牲にすることなく,装置と操作を大幅に簡略化することができた.この技術は将来,医療診断や環境分析を現場で迅速に行う方法として役立つことが期待できる.

図1 無動力マイクロチップ
図2 ウサギ IgG の検量線