◆医療・生命◆ マイクロチップを使って迅速なストレスチェック
 我々は日頃から多くのストレスにさらされている。過度のストレスは,疾病や老化の原因になることから,ストレスの度合いの正確な測定は医療診断や予防医学の観点から極めて重要である。これまでストレスの指標物質として唾液中のイムノグロブリンA(IgA)が知られているが,これを迅速に測定することは困難であった。そこで,マイクロチップ技術を応用して反応を速め,唾液中のIgA濃度を短時間に測定できる方法を開発した。フローシステムを用いれば測定時間を数百分の一に短縮できる。本システムは簡便なストレスチェッカーとして実用できるものと期待される。

Y1051】       マイクロチップを用いた超高速健康チェック

(首都大都市環境)○中嶋秀,八木麻衣子,工藤祐生,中釜達朗,下坂琢哉,内山一美
[連絡者:内山一美,電話:0426-77-2830]

 現代はストレスの時代といわれている。我々の身の回りには多種多様な化学的,生物的,物理的ストレスがあふれ,これらが心身の不調,種々の疾病,老化の原因となっている。そのため,ストレスの度合いを正確に知ることは,医療現場での診断補助だけでなく予防医学の観点からも極めて重要である。唾液中に含まれるコルチゾール,ノルアドレナリン,イムノグロブリンA (IgA)などはストレスによって濃度が変化するという報告もあり,これらの濃度を測定することによりストレスを客観的に評価できる可能性がある。IgAの定量法としては96穴マイクロプレートを用いた酵素免疫測定法が汎用されているが,測定に要する時間が数時間にも及ぶという欠点がある。これは,通常数万〜数十万の分子量をもつ抗体・酵素などのタンパク質の拡散速度が極めて小さく,反応が平衡に達するまでに長時間を要するためである。
 我々はマイクロチップを用いてIgAを迅速に定量する方法を開発した。マイクロチップの微細な流路(マイクロチャネル)では,物質の拡散を律速とする反応が極めて速く進行するため,測定時間の大幅な短縮が期待できる。マイクロチップはポリジメチルシロキサン製のものを用い,マイクロチャネルは幅1 mm,長さ40 mm,深さ20 mとした。チャネル内壁に第一抗体(anti-hIgA)を吸着させた後,試料である抗原(hIgA)を反応させ,さらにHRP標識第二抗体(anti-hIgA HRP labeled)を反応させた。検出はAmplex(R) Redのターンオーバーを利用した蛍光測定により行った。IgA濃度と蛍光強度の間には直線関係が認められ,実試料として唾液中のIgAを定量することに成功した。反応時間もフロー法とすることで数十分の一〜数百分の一に短縮可能であった。今後,他のストレスマーカーとの比較により正確なモニタリングも可能となるであろう。
 本研究の一部は平成16年度経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業(MEMS技術を利用した高速・高機能な健康度検査システムの開発)の助成を受けて行った。