◆医療・生命◆ 温度応答性充填剤を利用した新たな手の平サイズの分離システムの開発
 温度に応答して性質が可逆的に変化するポリマーを使った分離用ビーズを作成し,チップ上で,物質の分離が行えるマイクロシステムを開発した。温度によりビーズ表面の性質をコントロールし,疎水性の異なる複数の測定対象物質との相互作用を段階的に変化させ,分離を行うという全く新しい原理に基づく方法である。この方法では,血清なども前処理なしで,有機溶媒を使用せずに分離が行えることから,小型で簡便・安価であることに加え,有機溶媒による生体曝露がなく環境負荷の少ない方法として,医療現場での血中濃度測定などへの応用が期待される。

G2006】       温度応答性マイクロチップの構築とその評価

(共立薬大1・東女医大2)○飯塚元気1・金澤将史1・綾野絵理1・金澤秀子1
小林 純2・菊池明彦2・岡野光夫2 
[連絡者:金澤秀子,電話:03-5400-2657]

 現在、分析システムを一つのマイクロチップ上に集積し、縮小化しようとする研究が世界的に広まっている。例えば、DNAやタンパク質などを分離する電気泳動装置や多段階の合成装置や液体クロマトグラフィー(LC)システムが集積化されている報告がある。このマイクロ化技術の利点として、超微量試料の分析、合成反応や分析の高速化・自動化・並列化、環境への負荷の低減(試薬や廃液量の低減)などの特徴がある。これらの特徴が様々なニーズに応えられうるとしてマイクロ化技術は期待されている。本研究では、報告例の少ないLCに着目し、マイクロチップへの応用を行った。LCには高速分析が可能、多種類の成分の分析が可能、さらに再現性に優れているというような利点があり、これらの特徴を活かすべく研究を行っている。

 また、本研究室で用いているポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)は、32℃付近で物性が変化し、それ以下の温度では水分子が水和して親水性を示すが、それ以上の温度では脱水和して疎水性となり凝集し不溶化する。このようにPNIPAAmは外部からの温度刺激に対し、鋭敏で可逆的な相変化を起こすことが知られている。本研究室では、この高分子を分離担体に修飾し充填剤へと応用した。この温度応答性充填剤を用いたシステムでは、温度によって分離の制御が可能であり、水系の移動相のみを用いタンパク質やペプチドなどの生理活性物質の分離を達成してきた。また、ヒト血清を直接インジェクションし、水のみの移動相を用いて、抗てんかん薬などの分析に成功している。本システムは、有機溶媒を使用せず、血清の前処理も必要なく、直接、分離装置へのインジェクションが可能なため、病院などで行われている血中薬物濃度測定などの測定の簡易化・時間の短縮化が可能である。
 本研究では、マイクロチップ上にせき止め構造を有する流路を作製し、そこにPNIPAAm修飾分離担体を充填することにより温度応答性マイクロチップを構築した。このマイクロチップを用いてステロイド医薬品の分析を行った。その結果、マイクロチップ上で温度に応答した分離が水のみの単一な移動相で行えたことから、今後、さらにマイクロチップ以外(送液ポンプ、検出器)を縮小化することにより、手術室や診察室などの臨床現場へ自由に持ち運べる生体機能解析用マイクロシステムの構築が期待される。