◆医療・生命◆ リウマチ治療のための金製剤の動態分析
 現在約80万人が関節リウマチに罹っているといわれている。治療の中心は薬物療法で種々の抗炎症薬や抗リウマチ薬が開発され,その一つに金製剤がある。金製剤の作用機序の解明の第一歩として血清中の金製剤の高精度な形態別分析法を開発した。胆汁酸誘導体をコーティングしたODSカラムを用いるHPLCとICP-MSを結合し,さらにESI-MSを併用した装置を用いた。本装置により血清中のタンパク質と金製剤の相互作用を観察した。金製剤の作用機序が解明されれば,リウマチの原因解明と治療に大きく役立つことが期待される。

E1010】  HPLC/ICP-MS/ESI-MSによるリウマチ治療薬の血清内化学形態別分析

(名大院工)○谷川達也・松浦博孝・長谷川拓也・梅村知也・原口紘き
[連絡者:谷川達也、電話:052-789-4607]

 現在、日本ではおよそ80万人が関節リウマチにかかっていると言われている。リウマチは身近な病気であるが、未だ不明の点が多く、根本的な治療法がないのが現状である。その治療の中心は薬物療法であり、これまでに様々な抗炎症薬や抗リウマチ薬が開発されてきた。この抗リウマチ薬のひとつに金製剤がある。これは1927年にLandeとPickが金チオグルコースを利用したことに始まり、その後、金チオマレイン酸塩や金チオ硫酸塩を用いた臨床応用が数多く展開されてきた。これまでに、関節の炎症部位に金が蓄積され免疫系に作用し、腫れを鎮めるとの報告があるものの、その作用機序は未だ定かではない。今回、金製剤の作用機序の解明の第一歩として、胆汁酸誘導体の一種であるCHAPSをコーティングしたODSカラムを用いる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を結合した複合分析システム、さらにエレクトロスプレーイオン化質量分析装置(ESI-MS)を併用して、金製剤の血清内動態に関する基礎実験を試みた。
 金製剤として金チオリンゴ酸ナトリウム(商品名:シオゾール)を用い、血清内の主要なタンパク質として知られるアルブミンやトランスフェリン、セルロプラスミン、γ-グロブリンとの相互作用をHPLC/ICP-MSにより観察した。その結果、7分以内に金製剤と金と結合した各タンパク質を分離・検出することができた。金製剤は、アルブミンとセルロプラスミン、γ-グロブリンとは混合後速やかに結合したが、トランスフェリンに対してはほとんど結合しないことが分かった。また、結合部位と予想されるサイトをブロックするなどの操作により、金製剤の結合特性に関してもデータを蓄積しつつある。今後の課題は、炎症の引き金と言われている免疫系タンパク質とどのように作用していくかをみることである。金製剤の作用機序が解明されれば、リウマチの原因解明に大きく役立つことが期待される。また、生体内での金の役割は不明な点が多く、哺乳動物における必須性は証明されていないが、今後の実験によって生体内での金の役割解明への手がかりとなる可能性もある。