◆生活文化・  原始地球上でのアミノ酸などの生体分子の生成に関する新たな仮説
 エネルギー◆ 

 原始地球上で最初の生命が誕生する前に,アミノ酸などの生体分子が合成されたはずである。以前は,原始地球上にメタンが大量にあり,これとアンモニアからアミノ酸が生成したと考えられていた。しかし,今日,原始大気の主成分は二酸化炭素と考えられている。著者らは二酸化炭素とアンモニアから紫外線の作用によりアミノ酸などが生成しうることを見いだした。これは,原始海洋中にとけ込んだ二酸化炭素とアンモニアからアミノ酸が生成する可能性を示唆する。本研究では種々の分析法を用いてその合成機構について検証した。

C1031】     炭酸アンモニウム水溶液からの生命起源物質の合成 ー合成反応機構の解明ー

(京工繊大院工芸科学) ○川端泰典・西田洋之・木原壯林
[連絡者:木原壯林, 電話:075-724-7518]

 “生命がいかに誕生したか”は人類永遠の夢多き探求課題である。それは、この課題が、生命の定義、初期生命体の重合と組織化過程、生命を誕生させた環境などに関する尽きない知的好奇心を駆り立てるからである。しかし、近年、“生命は宇宙から来た”とする見解が大勢を占め、生命起源物質(アミノ酸、核酸塩基、糖など)の生成と重合の過程やその反応場(環境)などに関する研究は低迷している。また、惑星探査などの宇宙科学がこれを加速している。
 本研究は、生命起源物質が合成され、生命が誕生したのは原始地球上であると仮定して、その過程を化学的に明らかにしようとするものである。それは、宇宙環境に関する化学情報に比べて、地球環境に関するそれは圧倒的に多く、したがって、科学的根拠を持った生命起源に関する議論が可能であるからである。
 地球上での生命の誕生に関する実験的研究はMillerに始まる。1953 年、Miller はメタン、アンモニア、水素、水を主成分とする還元的気体中での放電によって、アミノ酸や有機酸を非生物的に合成した。以降、近年まで、生命誕生時の地球は還元的大気に覆われていて、そこで生命が誕生したとされてきた。しかし、地球・宇宙科学の成果は、原始大気が高濃度の二酸化炭素(CO2)を含む酸化的なものであったことを示唆し、例えば、NASA は、多量のCO2 による温室効果によって地表温度は 88℃ 程度であったと報告している。また、オゾンが存在しなかったために地表には大量の紫外線が到達していたと考えられている。
 発表者らは、生命誕生時の地球大気は酸化的であり、炭素はメタンでなく主としてCO2 として存在していたと考え、すでに、CO2 とアンモニアあるいは炭酸アンモニウムを含む水溶液を、80℃ 以上で紫外線照射すれば、アミノ酸、核酸塩基、有機酸が同時に生成すること、マグネシウム、燐酸イオンを共存させると生成量が大幅に増加することを見出している。この結果は、生命起源物質が、酸化的大気に覆われた地球の高温海洋(80℃ 以上)で、紫外線をエネルギーとして誕生した可能性を示唆する。
 本研究では、水溶液中の炭酸アンモニウムおよび反応中間体として見出したシュウ酸アンモニウムおよびオキサミン酸の光吸収、酸化還元挙動を、pH、温度、共存イオンの影響を念頭において測定し、生命起源物質の合成機構を考察した。結果と考察の一部は、要旨集(講演番号:C1031)に記述してある。