◆環境・防災◆   放射性元素を使わずに地下水の流れを解明
 これまで,自然界での物質の動きを調べるには主として放射性元素がトレーサーとして用いられてきた。理由は,放射性元素のほうが微量でも感度よく分析できるからである。しかし,放射性元素を散布することは危険を伴う。そこで,本研究では,ICP発光分析法で非常に高感度に分析できるストロンチウムに着目し,地下水の流れの解明を試みた。地下水脈での透水性盛土層の効果を見るため,試験井戸に高濃度の非放射性ストロンチウムを入れた後,離れたところの湧水中のストロンチウム濃度変化の測定により,両地点が地下水でつながっていることが解明できた。

【P3083】    ストロンチウム濃度を指標とする地下水動態調査

(東京高専)矢野良子,伊藤沙希,阿部善也,松原里枝,矢島龍,長嶋真一郎
[連絡者:矢野良子,電話:0426−68−5069]

 東京都八王子市の八王子みなみ野シティは,自然との共生を合言葉に現在も一部区域の開発工事が進行中(旧都市基盤整備公団東京支社)の新都市である.ここでは全国で三例目となる水循環再生システムが導入され,その一環として旧谷戸部の盛土造成のため施工された透水性盛土層は,分断された地下水脈を連結する機能を果たすことが期待されている.この工法の機能についてはシュミュレーションによる解析などから推測,評価されてはいるが,地下水動態調査による実証も求められており,2002年度より本研究が開始された.本研究では,従来の地下水動態調査において指標として用いられることの多かった放射性同位元素あるいは人工化学物質である蛍光体などを使用せず,安定トレーサーとしてストロンチウムイオンを用いることが特色である.ストロンチウムイオンはカルシウムイオンと性質が極めて類似しており普通の地下水中にはカルシウムの約1/200,1L中に0.01mgから0.2mgほど溶けている.この低濃度のストロンチウムは誘導結合プラズマ原子発光分析装置で分析した.この装置は多種類の微量元素の分析に適しているが,特にストロンチウムに対しては,1L中に0.0001mgあれば検出可能であるのでこの研究にとって極めて好都合であった.今回の地下水動態調査は開発工事区域内の自然地盤に頼られた試験井戸Xへ高濃度のストロンチウムイオンを含む溶液を2002年11月27日に投入し,二つの人工地盤(A, B;透水性盛土施工)を経由する地下水流の下流部と予想される自然湧水Pでのトレーサー応答を観察したものである.P地点でのストロンチウム濃度の経時変化グラフより,トレーサー投入後約450日で濃度上昇が始まったことがわかる.地下水の実流速は1日当り1m程度であると見積もられるので,この濃度上昇を直線距離で約400m離れたP地点での応答開始と判断するのは妥当である.