◆環境・防災◆   カーボンナノチューブの新しい電気化学センサー
 カーボンナノチューブは化学的に安定で,高い導電性をもつ性質から電極として適しており,また有機汚染物質に対して高い捕集効果があるので,低濃度の環境汚染物質のセンサー材料として活用できる。そこで多層カーボンナノチューブの修飾電極を作成し,天然女性ホルモン,17β-エストラジオールを電気化学測定した。修飾をしていない電極にくらべ,15倍も検出感度が増加した。このセンサーを利用すると環境中に存在する低濃度汚染物質を高度に濃縮できるので,簡便かつ高感度な検出が可能になった。

【P3184】   カーボンナノチューブ修飾電極による環境汚染物質の電気化学的検出

(北大院地環研)○照井教文、古月文志、田中俊逸
[連絡者:田中俊逸、電話: 011-706-2219]

 産業や生活様式の高度化に伴い多種多様な化学物質が環境中に放出されており、非常に低濃度でも深刻な影響を与える環境汚染物質の存在が懸念されている。このような複雑な状況のため、環境中に低濃度で存在する環境汚染物質を探索し、その影響を評価することの重要性が高まってきている。溶液中に低濃度で存在する汚染物質を効率的に検出するためには、目的物質を局所的に捕集・濃縮する必要があるが、本研究では近年、注目を集めている機能性材料であるカーボンナノチューブに着目した。
 カーボンナノチューブはグラフェンのシートをナノメートルサイズの円筒状に巻いた構造であり、強度が高く、化学的に安定であり、高い導電性を持つことから電極材料として有用であるとともに、ダイオキシン等の有機汚染物質に対して高い捕集効果があることが知られている。そこでカーボンナノチューブで修飾した機能性電極を作製し、環境中に低濃度で存在するの汚染化学物質を対象とした非常に高感度、高精度な電気化学センサーの開発を行った。
 硝酸処理した多層カーボンナノチューブ(MWNT)のナフィオン溶液を電極上に滴下、乾燥してMWNT修飾電極を作製し、強い内分泌攪乱作用を持つ天然女性ホルモン、17β-エストラジオールを電気化学測定した。MWNT修飾電極を溶液中に5分間浸せきした後で測定したところ、MWNTで修飾した電極は修飾していない電極に比べて〜15倍も検出感度が増加した。これは電極上のMWNTに17β-エストラジオールが効率よく捕捉されたことを示しており、MWNT修飾電極の有効性が確かめられた。MWNT修飾電極を利用した電気化学検出法を他の分離・濃縮法と組み合わせることにより環境中に存在する低濃度汚染物質に対するより簡便で高感度な検出法が開発されることが期待される。