◆新素材・
 先端技術◆ 
音で濃度を“聞き分ける”

 試料中に目的成分がどれ位あるかを知る定量分析においては,今まで音を使うことはほとんどなかった。本研究では,試料溶液の入った容器を叩いたときに発生する音が,容器の固有振動数の一要素である溶液中の成分濃度と関連があること,更にその変化の度合いは目的成分濃度に正確に比例することを見いだした。この音は周囲の雑音の影響を受けないため,小型のマイクロフォンと音声解析ソフトという簡単な装置で誰でも簡単に濃度測定を行うことが可能である。コロイド溶液や懸濁液,有色溶液などに適用したところ,定量分析に実用し得ることが確認された。

【P3014】    音による新奇な溶液濃度測定法へのアプローチ

(金沢大理)○溝渕敦史・松本 健
[連絡者:松本 健,電話:076-264-5693]

 五感の1つである音は,昔から「わずかな音の違い」を聞き分けて「色々な物の状態を判別する」技術や技能に活用されてきているが,分析化学の計測法として「音による分析法」はこれまでほとんど研究されていない。ある特定の音と試料中の分析成分濃度との間に相関性があって,その音を計測することで目的成分の濃度が定量できれば,新しい分析法となるものと期待される。
 本研究では,試料溶液の入った容器を叩いたときに発生する音は,(1)その容器の固有振動数に相当すること,(2)この固有振動数は溶液の量や液性,目的成分濃度によって大きく変化すること,(3)変化の度合いは目的成分濃度に正確に比例することを新たに見出した。 一般に,わずかな音の違いを測定するためには,特別な遮音装置が必要と思われるけれども,容器を叩いたときに発生する音は周囲の雑音から全く影響を受けずに測定できる利点があるため,特別な装置や器具は不用であり,場所を問わずに誰でも簡単に行える方法,すなわち,音による新奇な溶液濃度測定法が構築できる。
 測定は,ガラス製容器に試料溶液を入れ,容器の側面をガラス棒で軽く叩き,発生した音を小型のマイクロフォンで集音し,音声解析ソフトを用いて測定容器の固有振動数を測定する。目的成分濃度に比例して,固有振動数が変化するので,その変化量から溶液濃度を定量できる。例えば,塩化カリウム水溶液の 0.5-10%(w/w) の範囲で,3.00 %が3.08±0.04% (n=5), 6.00 %は6.06±0.08%(n=5)と精度良く定量できた。
 本法は,分析試薬を使用せず,周囲の雑音を全く気にすることなく測定でき,各種溶液のわずかな濃度差を数秒間で精度よく測定できる画期的な計測法であり,コロイド溶液や懸濁溶液,有色溶液などにも適用したところ,実用できることが確かめられた。