◆医療・生命◆ マイクロビーズ列を利用した細胞のがん化の可視化
 近年DNAチップなどによるヒトの遺伝子を網羅的に調べる研究により体質や疾病に深く関わる重要な遺伝子が見つかっている。筆者らはこの重要な遺伝子だけを選択的に簡便・迅速に測定できる分析方法としてビーズアレイチップを開発した。合成DNAを表面に結合したマイクロビーズをマイクロ流路内に所定の順番で並べ,ここに細胞から抽出し蛍光分子を結合したm-RNA溶液を往復送液した。ガン細胞と正常細胞とでは発現するm-RNAの種類が異なるので,チップの蛍光画像が異なり,細胞のガン化を識別できる。本チップは基礎医学や新薬開発の分析ツールとして期待される。

【H3007】  ビーズアレイチップの開発とその遺伝子発現解析への応用

(日立ソフト・産総研ゲノムファクトリー研究部門1・阪大院病態制御外科2・DNAチップ研究所3
○小木 修・新山明香・岸田 浩・小松康雄1・山崎 誠2・竹政伊知朗2・門田守人2・松原謙一3 
[連絡先:小木 修,電話:045-500-5323]

 近年,DNAチップに代表される最新の分析ツールにより,ヒトのすべての遺伝子を網羅的に調べる研究が行われてきました。また,これらの研究成果により,ヒトの体質や病気に深く関わる重要な遺伝子も見つかってきています。そこで,これらの重要な遺伝子だけを選択して簡単かつ迅速に調べることができる新しい分析ツールの登場が強く待ち望まれています。私たちはこのような新しい分析ツールの製品化を目指して,ビーズアレイチップの研究・開発を進めています。
 ビーズアレイチップの仕組みを,細胞のがん化を調べる場合を例にとって説明します。このチップは,数センチメートル角の基板上に刻んだマイクロ流路の中に,合成DNAを表面に結合したマイクロビーズを所定の順番で並べることにより製作します。このチップを,細胞から抽出し蛍光分子を結合したmRNA(メッセンジャーRNA)サンプルとともに専用の送液装置にセットします。このチップの最大の特徴は,マイクロ流路の中でサンプルを往復送液することによりサンプルを効率よく撹拌し,ビーズ表面のDNAとmRNAサンプルを短時間で反応させることができるという点です。反応が終了したら,チップの蛍光画像を観察します。このとき,正常細胞とがん細胞では働いているmRNAの種類が異なるため,チップの蛍光画像が異なります。従ってこの画像の違いに基づいて,細胞のがん化を調べることができるのです。

ビーズアレイチップは,医学の基礎研究や新薬の開発に非常に役立つ分析ツールになるものと期待されます。また,将来的には検査や診断のためのツールとしてより幅広いユーザに利用していただける製品にすることを目指しています。