◆ 新素材・   超短パルスレーザーによる新しい金属元素分析法の提案
 先端技術◆  

 フェムト秒(1000兆分の1秒)のパルスを発生するレーザーを物質表面に照射すると,物質中の原子を励
起し,高エネルギーの電子を飛び出させ,特性X線が発生する。本レーザー発生装置は,小型のものが市販
されているので,その場分析が可能となる。本研究では,この特性X線を半導体検出器で検出して元素分析
を試みた。クリスタルガラス中の鉛や石炭飛灰とマンガン団塊中に1%以上含まれるカリウム,カルシウム,
マンガン,鉄の検出ができた。今後は検出器の改良と定量性の検討によって実用化が期待される。
【3P77】 フェムト秒レーザー誘起X線発光スペクトルによる金属元素分析の試み

  (石巻専修大理工1・東北大院理)○福島美智子1・畑中耕治・小野博司・松島進一・福村裕史
  [連絡先:福島美智子、E-mail: fukusima@isenshu-u.ac.jp]
 固体や液体のような物質表面にフェムト秒レーザーを照射すると、その物質に含まれる原子からX線が発生する。フェムト秒とは千兆分の一秒の単位のことで、ごく短い時間内に光エネルギーを集中することにより千兆ワット程度の極めて高い出力が容易に得られる。このような高出力のレーザー光を照射すると、原子から電子が飛び出し、飛び出した電子が光によって加速されて原子に衝突することにより、結果としてX線が発生すると考えられている(図1)。このX線は元素に特有のものであるため、X線発光スペクトルを測定して、物質中の元素を特定することができる。フェムト秒レーザー装置は市販されおり、最近では自動車に積めるほど小型になって、戸外での使用も可能になっている。したがってこの分析手法は、特別な大掛かりな施設を必要とせず、一般的な実験室内や戸外でさえも手軽に“その場分析”に応用できる可能性がある。そこで本研究では、フェムト秒レーザー光で誘起されたX線発光スペクトルを半導体検出器で測定し、地球環境試料やガラス等の固体試料、および金属塩水溶液中の金属元素の定性を試みた。
 実際の実験では、顕微鏡用の対物レンズによりレーザー光を試料表面上に集光照射した。誘起されたX線を半導体検出器で測定し、10〜60分間積算した。得られた結果の一例として、市販クリスタルグラスのX線発光スペクトルを図2に示す。クリスタルグラスに含まれる酸化鉛に起因する鉛の特性X線(Lα線およびLβ線)を検出することができた。また、地球環境試料として比較標準試料の石炭飛灰およびマンガン団塊を測定したところ、公定値あるいは推奨値がおよそ1%以上で、かつカリウム以上の原子量の元素(K, Ca, Mn, Fe)のピークを検出できた。さらに、電気メッキなどに用いられるようなニッケル水溶液からもニッケルの特性X線に起因するピークを認めることができた。
 今後、多くの元素が混合した試料を分析するため、高分解能の検出器の導入等の改良を加えることが必要になるであろう。将来の応用例としては、鉱床の探索中にその場で鉱石の分析を行ったり、比較的高濃度の金属廃液の成分測定や濃度のモニタリングなどが考えられる。
図2 市販クリスタルグラスのX線発光スペクトル