◆ 新素材・   乾電池を利用した究極の携帯型蛍光X線分析装置の開発
 先端技術◆  

 蛍光X線分析法は,試料を破壊せずに成分元素についての情報を得ることができる分析法である。非破壊を
前提とする文化財資料など実験室外での現場分析のニーズも高く携帯型装置が望まれるものの,X線管が大電
力を要するため小型化には限界があった。本研究では,近年米国で開発された,乾電池を用いたX線発生装置
を組み込んだ装置を開発した。加熱により電圧を発生する焦電結晶を利用して数万ボルトの高電圧を発生させ
る方式で,X線強度が弱いため取り扱いも制約が少ない。現場での材料確認や有害元素混入のチェックなど幅
広い用途が期待される。
【3E01】 電池式ポータブル蛍光X線分析

  (京大・工,*理学電機工業) _ 河合 潤,山田 隆*,藤村 一*
  [連絡者:河合潤,E-mail:jkawai@mtl.kyoto-u.ac.jp ]


 
蛍光ィ線分析は,どんな元素がどのくらい入っているかを分析する方法で,和歌山のカレー ヒ素事件や,
最近ではカドミウムのような有害元素が混入したため欧州がテレビゲームを輸入禁止にした事件などの分析
で使われました.使用されるィ線管は大電力を用いるため,大型の装置になります.小型のものでも卓上型
です.もっと小型の装置は放射性同位元素をィ線管の代わりに用いているので,管理には十分に注意する必
要があります.火星へ行って岩石の成分を分析したのは,放射性同位元素をィ線管の代わりに使った小型蛍
光ィ線分析装置でした<br>  最近米国で,超小型のィ線発生デバイスが市販されました.約20万円です.蛍光ィ線分析用のィ線管は数
百万円することに比べると破格の安さです.このデバイスでは,まず,9Vの乾電池で加熱し数十度の温度差
をつくります.温度差があると高い電圧を発生する焦電結晶で数万ボルトの電圧を発生させます.この電圧
をィ線発生に用いることにより,非常に弱いィ線を発生させます.このデバイスの大きさは直径1cm,高さ
1cmの円筒容器に入っています.本研究では,このデバイスを用いて有害元素が含まれたものを1分以内に分
析できることを示しました.
 将来,図のように,この装置を携帯電話に接続すれば,元素分析結果をコンピュータへ送って解析するこ
とや,遠隔操作で分析することも可能になりそうです.ィ線の強度は十分に弱いため,法律上も制約があり
ません.リサイクル現場で有害元素が混入するのを防いだり,簡単にチェックしたりする目的にも使えそう
です.

蛍光ィ線分析装置
捨ててよいかどうか調べる
図 将来は携帯電話での分析も可能に.