◆ 新素材・   高感度検出で新しい医療マーカーとしてのD-アミノ酸の機能を解明
 先端技術◆  

 生体内に存在するアミノ酸のほとんどはL型であるが,近年,微量で測定が困難であったD型アミノ酸の検出が可能となり,その生体内の機能が明らかになりつつある。本研究では,D-アミノ酸を蛍光で標識し,他の妨害物質を分離し,血清,尿や唾液中に極微量に含まれるD-アラニンを選択的に定量する方法を開発した。D-アラニンは,疾病との関連が指摘されているD-アミノ酸の一種で,アルツハイマー病や腎障害で増加すると言われており,新しい医療用マーカーとして期待できる。またD-アミノ酸の高感度な測定技術は,病気の発生メカニズムの解明や新薬の開発にもつながる。
【1B11】 ヒト血清、尿及び唾液における内在性D-アラニン定量

  (九大院薬) ○森川亜希子、浜瀬健司、財津 潔
  [連絡者: 財津潔, E-mail: zaitsu@phar.kyushu-u.ac.jp]

  
 
アミノ酸はタンパク質の構成や神経伝達など、重要な生理機能を持っている。殆どの天然アミノ酸にはそ
の立体構造の違いからL型とD型が存在し、生体内では異なるものとして認識される。ヒト等の哺乳類体内に
存在するアミノ酸は殆どがL型であるが、近年数種のD型アミノ酸が哺乳類体内で発見され、神経伝達やホル
モン分泌の制御などに関与する事が明らかになってきた。生体内に存在するD型アミノ酸の一種であるD-アラ
ニンについてもアルツハイマー病や腎障害で体内含量が増加する事が報告されており、疾病との関連が指摘
されている。しかし、ヒトにおける体内D-アラニン含量は通常極めて微量で定量が困難であり、その体内動
態や生理機能には不明な点が多い。
 そこでヒトの体内におけるD-アラニンの動態解明及び新しい疾病マーカーとしての有用性を検討するため、
ヒト血清、尿及び唾液中D-アラニンの高感度かつ選択的な分析法を開発した。この方法はD-アラニンを高感
度な蛍光誘導体化試薬(NBD-F)により標識した後、共存成分との分離とDL分割を高速液体クロマトグラフィー
で連続して行うものである。これを用いて健常人の血清、尿及び唾液中D-アラニンを測定した結果、何れの
試料においても良好にD-アラニンを定量する事に成功し、血中含量と尿中含量は非常に良く相関している事
が明らかになった。この方法は極めて微量な試料からも正確にD-アラニンを測定する事が可能であり、指先
から1滴の非疼痛採血で体内D-アラニン含量をモニターする事が可能である。従って、疾病時など様々な生理
条件下におけるヒト体内のD-アラニン含量(1兆分の1g程度)を詳細に調べる事が可能であり、D型アミノ酸を
利用した新しい疾病マーカーの発見、未知の病気の発生メカニズムの解明、新薬の開発などに繋がると期待
できる。