◆医療・生命◆  個性を決める一塩基多型を色の変化で判別
 DNA配列の約1000塩基に1つの違いである一塩基多型が,個性を生み出す要因となっている。この違いは特定の病気へのかかりやすさや薬への応答に関係するものもあり,迅速にその場で診断する技術が求められる。著者らは一塩基多型を検出するため,金ナノ粒子に一本鎖DNAを化学修飾した赤色の塩化ナトリウム溶液を作製した。この溶液に完全に相補的なDNAを加えると金ナノ粒子は速やかに凝集し青色に変わった。一方,わずか一塩基でも異なる場合には,このような変化は全く起こらなかった。これにより目視で迅速,簡便に一塩基の変異が検出された。
【3K04】  金ナノ粒子凝集反応を用いた遺伝子診断法の開発

  (理研)○佐藤 香枝・細川 和生・前田 瑞夫
   [連絡者:前田瑞夫、E-mail:mizuo@riken.go.jp]

 ヒトのDNA配列はほとんど共通であるが、約1000塩基に一つは各人によって異なり、この違いがさまざまな個性を生み出す要因となる。この個人間における一塩基の違いを一塩基多型(single nucleotide polymorphism; SNP)と呼ぶが、その中には特定の病気へのかかりやすさや、薬物への応答、副作用に関係するものも多数あり、これらを診断することによって、各人に最適な医療を施すことができると考えられている。
 現在広く用いられているDNAマイクロアレイに代表されるオリゴヌクレオチドプローブと検体DNAの二重らせん形成の差を利用した検出方法は、わずか一塩基の違いを区別するには精密な設計が要求される。また将来的に遺伝子診断がより身近な存在になり、適切な場で必要な時に診断できるようにするためには、技術の簡便化が求められている。
 本研究ではナノメートル・サイズの金コロイド粒子を用いて、目視による簡便明瞭な遺伝子の一塩基変異検出法を開発した。昔からよく知られた現象であるが、金ナノ粒子が分散した水溶液は赤色で、ここにNaClを加えると凝集して青色に変色する。多数の一本鎖DNAで金ナノ粒子を修飾すると粒子はNaCl溶液中でも安定に分散した。このDNA金ナノ粒子の分散液に、相補的な検体DNAを添加して粒子表面で二本鎖を形成させると、 DNA金ナノ粒子が自発的に凝集して系は速やかに青色に変化し次第に沈殿が生じた。この反応は迅速であり3分程度で明瞭に目視検出可能であった。一方、わずか一塩基だけ変異させた検体DNAを添加してもこの変化は起こらず、二本鎖を形成している状態でも分散を示す赤い色を保った。当研究室で見出されたこの特異現象を活用した簡便かつ迅速なSNP検出法の開発を行った。
 本研究のように、特別な機器を必要とせず、室温で溶液を混ぜるだけという簡便な操作で、迅速かつ明瞭に一塩基の違いを判定できる方法はこれまで報告例はない。この新技術とプライマー伸長反応と組み合わせることにより実試料への応用も期待できる。