◆医療・生命◆  環境ホルモンの免疫かく乱作用を細胞を使って測る
 外因性内分泌かく乱物質,環境ホルモンは,致死的毒性は低いが,微量で内分泌かく乱作用,免疫かく乱作用,神経作用などを示す。しかし,内分泌かく乱作用以外についての評価法はまだ確立されていない。免疫成立において中心的な役割を果たすマクロファージに分化する細胞であるモノサイトをヒト末しょう血から単離して微量化学物質の免疫かく乱作用をin vitroで評価する方法を確立した。環境ホルモンや重金属が免疫細胞の分化を抑制することが分かり,この方法が細胞の生死を利用した従来の毒性評価法より1000倍感度の高い評価法であることが示された。
【3K17】  ヒト末梢血単球を用いた環境汚染化学物質の免疫かく乱作用のin vitro評価法
      〜内分泌かく乱物質の免疫かく乱作用を探る〜

  (東京薬大・生命科学・境衛生化学)○太田宇海・櫻井照明・藤原祺多夫
   [連絡者:櫻井照明, E-mail:sakurai@ls.toyaku.ac.jp]

 現代社会には天然、人工を問わず様々な化学物質が反乱している。環境ホルモンの概念が紹介されてから、従来の毒性試験で比較的安全とされていた化学物質も、微量で内分泌かく乱作用、免疫かく乱作用、神経作用などを示す事が明らかとなり、ヒトの健康に重大な被害を与えている可能性が示唆されている。これら微量化学物質の未知の生体作用を正確に予見、把握するための新しい評価法の確立が強く望まれている。多くの研究により、内分泌かく乱作用については有用な評価法が確立されつつあるが、その他の作用については未だ確立していない。今回我々はヒトの末梢血から分離した未成熟な免疫細胞(単球;モノサイト)を用い、微量な化学物質の免疫作用をin vitroで効率良く評価できる実験系を提案する。血中に存在するモノサイトは血流を介して体中の臓器に分布し、場に応じた刺激を受けて特有の性質をもつマクロファージへと分化成熟する。マクロファージは異物を貪食し、リンパ球に異物を抗原として提示して抗体産生を促す、いわば免疫系の中心的な細胞である。モノサイトからマクロファージへの分化は外来刺激に敏感に反応するので、化学物質の影響を観察するのに適している。実験ではモノサイトをin vitroでサイトカインと共に1週間培養してマクロファージへ分化成熟させる系に、ノニルフェノールやビスフェノールAなどの環境ホルモン、カドミウムや水銀などの重金属を添加し、その影響を観察した。その結果、多くの化学物質がnM〜μMレベルで免疫細胞の分化を抑制した。即ち、いわゆる環境ホルモンは免疫かく乱作用も合わせ持つ事が明らかとなった。また、本法は細胞の生死を基準とした従来の毒性評価法に比べ、検出感度が約1000倍改善されていた。化学物質の中には細胞の分化を抑制するだけでなく、全く異なった免疫細胞への分化を誘導するものも確認されており、現在その作用機序を解析中である。