◆医療・生命◆  唾 液 か ら ス ト レ ス を 探 る
 ヒトはストレスを受けると交感神経系等の活動が高まり,カテコールアミンやコルチゾールなどが分泌されることが知られている。従来,これらの物質を測定するには,生体試料として血液や尿が用いられる場合が多く測定時間も長いため,人に負担が少なく迅速な分析法が必要とされてきた。本研究では,マイクロチップ電気泳動とレーザー蛍光検出を組み合わせることにより,唾液中の微量なストレスマーカーを高感度に測定することに成功した。多成分を高感度で測定可能であることから,現代社会で問題となっているストレスを客観的に評価する方法として期待される。
【3P18】  ストレスマーカー計測用マイクロ電気泳動チップ(IV):
      運動ストレスタスク被験者唾液のキャラクタリゼーション

  (産総研) 脇田慎一、○鳴石奈穂子、宮道隆、絹見朋也、吉野公三、松岡克典、二木鋭雄
   [連絡者:脇田慎一, E-mail:s.wakida@aist.go.jp]

 現代社会において、ストレスは深刻な問題である。生活の質(QOL)の向上には、客観的にストレスを評価する技術開発が重要である。ストレス評価には、(1)心理テスト等による主観評価法、(2)心拍などの電気生理信号を統計的、動力学的に解析する手法、(3)生体試料中のストレス関連物質を計測する生化学的手法がある。
 ヒトはストレスを受けると、交感神経-副腎髄質系と視床下部-下垂体-副腎皮質系の活動が高まり、カテコールアミンやコルチゾールなどが分泌されることが知られている。現在、これらの測定にはELISA法が最も一般的であるが、長い測定時間を要する。そこで我々は、迅速アッセイを特長とするマイクロチップ電気泳動とレーザ励起蛍光検出法の組み合わせにより、多成分同時検出と高感度化を目指した。
 また、生体試料としては血液や尿が用いられているが、採血には資格が必要であり、更に採血の行為自身がストレスを伴う。一方、尿は連続採取には適していない。そこで、我々は、非侵襲的に採取でき、さらに随時採取が可能な唾液を試料とし、迅速アッセイ法の検討を行った。
 電気泳動チップには、クロス型の石英製マイクロチップを用いた。試料として、ストレスタスク実行中(図)に、倫理規程に基づき予め同意いただいた被験者から唾液を採取した。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)により蛍光ラベル化したヒト唾液試料を、オートサンプラーを用いることにより、全自動で分離分析を行った。
 これまでに報告した、PMMA製プラスチックチップを用いて唾液試料を泳動分離した場合と、ほぼ同等な分離パターンが石英チップでも得られた。石英製マイクロチップにおける分離時間は約150秒であり、プラスチックチップにおける分離時間の240秒に比べ、より高電圧を印加した結果、より迅速に分離を行わせることが可能となった。また、通常のキャピラリー電気泳動においても同一試料の分離分析を行った結果、約25分で類似した分離パターンが得られたことから、マイクロチップ電気泳動を用いると、大幅な迅速化が達成されることが分かった。
 各種ストレスタスク実験で得られた被験者唾液について予備的な検討を行ってきたが、ストレス負荷により、分離ピークが増加するパターンが、複数の被験者に見出された。これらの未知ピークは新たなストレスマーカーとしての可能性が示唆される。現在、ストレス負荷により新たに出現したピークの解析を、CE-MS及びプロテオミクスの手法により進めている。

ストレス負荷実験の概要