【3P53】 ICP質量分析法による貝殻中の希土類元素の分析
(宮城教育大・元東北大農1)○藤村久美子・浅野拓郎・出口竜作・山崎慎一1・猿渡英之
[連絡者:猿渡英之,E-mail:sawatari@staff.miyakyo-u.ac.jp]
本研究では、貝殻など海産生物の炭酸カルシウム骨格中の極微量の希土類元素の濃度について信頼できると思われる値を得ることができた。そして、種類による明らかな違いを見出した。
希土類元素は、地球科学の分野においては岩石の起源などについて重要な情報を与える元素群として非常によく分析が行われており、岩石などについては豊富なデータが蓄積されている。その一方、生物にとっては必須元素でもなければ特に有害な元素とも考えられていないので、生物中の希土類元素についてはこれまで大きな関心が持たれてきたとは言いがたく、信頼できるデータも少ない。しかしながら、有用でも有害でもないゆえ、希土類元素は生物が積極的に取り込んだりあるいは排除したりすることはないので、貝殻など炭酸カルシウム骨格中の希土類元素を分析することにより生物が二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定するプロセスについての知見が得られるものと考えられる。
本研究では鉄共沈法を用いて極微量の希土類元素を分離・濃縮した後に誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)で測定することによって、貝殻などの中のppb(1グラム中に10億分の1グラム)レベルの極微量の希土類元素を分析することができた。その結果を(図)に示す。この図は「希土パターン」と呼ばれ、試料中の14の希土類元素の各濃度を、基準として隕石の中の希土類元素濃度(隕石は地球全体の平均を代表すると考えられている)で割ってプロットしたものである。クボガイとバフンウニでは濃度は大きく異なるものの希土パターンの形はよく似ており、地殻の平均的な岩石の希土パターンに類似している。ムラサキイガイは重希土(原子番号が大きい希土類元素、図の右側部分)の形が異なることが分かる。この原因は、クボガイとバフンウニは岩についた藻類を餌としており、これに対しムラサキイガイは海水中のプランクトンを吸い込んで餌とする貝であるという食性の違いに関連しているものと考えられる。
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