◆環境・防災◆  植物により土壌中の無機化合物の分布が変わる
 植物は,土壌から養分を吸い上げたり,落葉などにより土壌に化学物質を供給し,土壌環境に影響を与えている。本研究では,種々の植生の森林土壌中の無機化合物の鉛直分布を分析することにより,樹木やタケの土壌への影響について調べた。根を深く張るスギや広葉樹は深さ100 cmまでの無機化合物分布に影響を与えるが,根を水平方向に張るタケは20 cmより深い土壌にはあまり影響を与えていなかった。また,同種の樹木でも林齢により影響の与え方が異なることも分かった。このような植物と土壌のかかわりを調べることは環境保全のためにも非常に有用である。
【1A29】   森林土壌中の無機化合物の鉛直分布におよぼす植生の影響

  (龍谷大理工)○深谷靖恵・広瀬由起・巽勇人・藤原学・松下隆之
  [連絡者:藤原学, Email:fujiwara@rins.ryukoku.ac.jp]

 

 植物は自らに適した土壌を選択して自生する性質がある。しかしそれだけでなく、落葉や落枝を通じて土壌に化学物質を供給し積極的に土壌を変化させることも行っている。このような植物と環境との関わりを知り、森林生態系を深く理解することは、単に森林や土壌のことだけではなく広く見れば水や大気をも含んだ自然環境の保全に非常に重要である。森林土壌は下図に示すように、表層から順にA0、A、B、C層などという層位に大まかに分けることができる。そのなかで、A層はB層に比べて炭素含有率が高く、通気性、透水性も良好で植物にとって適した環境である。また、B層は風化が進んでおり腐植物質に乏しく、A層から溶脱された無機イオンなどが集積する層であり、植生や地形によりそれぞれの層の厚さは異なる。本研究では、植生や地形が異なる種々の特徴ある森林から土壌サンプルを採取し、キャピラリ−ゾーン電気泳動(CZE)、蛍光X線、XPS法により、主に無機化合物について定性・定量分析を行なった。これらの結果より、それぞれ無機化合物の垂直分布と森林植生や採取ポイントの地形との相関について検討した。
 近畿地方のタケ林、スギ林、ヒノキ林、コナラを主とする広葉樹林で土壌サンプル採取を行なった。またスギ林に関しては、林齢の異なる林(3年生〜83年生)よりサンプルを採取した。まず、落葉や落枝の堆積層であるA0層を取り除き、採土器によってサンプルを採取した。また、A層より鉛直方向に10cm間隔で150cmの深さまでサンプルを採取した。採取した土壌を風乾し、ふるいにかけた後、pH、蛍光X線、XPSスペクトルを測定した。また、土壌中の無機イオンを弱酸性の蒸留水で溶出させ、CZEにより移動性無機イオンの定量を行った。
 蛍光X線スペクトルおよび、CZEの測定結果より、無機化合物の鉛直分布において植生や地形の影響が見られた。根が深いところまで発達しているスギや広葉樹林では、深さ100cmまで植物の直接的な影響がみられ、無機化合物の大きな濃度変化が見られた。しかし、タケ林では根は水平方向に発達しており、深さ20cm程度までしか根が生えておらず、その下層では無機化合物濃度に大きな変化は見られなかった。また、同じスギ林においても、林齢が異なると無機化合物の鉛直分布に違いが見られた。これは、林齢の違いにより根の発達度合いが異なることによるものと考えられる。土壌中の移動性無機成分については、特にMg2+とCa2+の移動速度が大きく、それに伴った土壌pHの変化が見られた。植生によって特徴的な有機化合物の存在が、無機化合物の分布におよぼす影響についても論じる予定である。