◆新素材・   化学の‘ものさし’をつくる(4)VOC標準ガス
 先端技術◆


 ベンゼンなどの揮発性有機化合物(VOC)については,環境基準値が設定されているため,その計測においては信頼性のある分析を行うことが前提となる。特に大気中の低濃度の物質の分析では,精確に調製された標準ガスが不可欠である。そこで小型ステンレス容器と安定性の高い機械式の天びんにより,高精度な標準ガスを調製する手法を開発した。この手法により,任意の希釈濃度の標準ガスを短時間で高精度に調製することが可能になったため,現場での高精度の分析が期待できる。

          低圧充填による高精度VOC標準ガス調製法の検討

    (製品評価技術基盤機構)○石村豊、石川花子、春日麻紀、金井正夫、
                   村山真理子
                   [連絡者:村山真理子、電話:03-3481-1921]


 大気汚染防止法により大気中の濃度が低濃度であっても長期的に暴露された場合に健康への影響が懸念される有害大気汚染物質への対策が始まっている。その中で優先取組物質については地方公共団体によりモニタリングが開始され、ベンゼンなどの揮発性有機化合物(VOC)については環境基準値も設定されている。これら低濃度物質の規制が進む中、それと同時に低濃度での分析値の信頼性も重要視されるようになってきた。これら環境レベルの低濃度で、なおかつ、信頼性のある分析値を求めるためには、試料採取法、分析手法の開発の他に、精確に調製された標準ガスが不可欠である。標準ガスは機器分析において試料の濃度を決定するための《ものさし》の役割を果たしている。この《ものさし》の目盛りが正確で細かいほど、信頼性の高い分析値を求めることができる(イラスト参照)。さらに近年では、濃度の不確かさについても評価することが、高精度な標準ガスを調製するための要求事項である。

 本研究では芳香族系の揮発性有機化合物(VOC)を選定し、高精度な単成分、多成分混合標準ガスの調製法を開発した。標準ガスは空の充填容器に希釈ガスや成分ガスまたは液体成分を混合させて調製されるが、小型ステンレス容器(充填圧力1MPa)と、電子天秤より安定性の高い機械式の天秤を用いることにより、高精度な標準ガスを調製することができた。また、ガスクロマトグラフや質量分析計の分析結果から、容器内標準ガスの安定性や検量線の直線性も確認することができた。標準ガスの調製は標準液と異なり任意の濃度を調製することが困難であったが、この手法により実験室レベルで、任意の希釈濃度の標準ガスを、簡便に、短時間で高精度に調製することができる。