◆新素材・   化学の‘ものさし’をつくる(3)
 先端技術◆ ウラン・プルトニウム分析用核燃料標準物質

 使用済核燃料の再処理プロセスにおいて,ウラン及びプルトニウム濃度を精確に求めることは核物質管理の観点からも重要である。本研究では,同位体希釈法で核燃料物質中ウラン・プルトニウムを定量するためのスパイク標準試料の開発を行った。安定性に乏しかった従来の調製法に替わる,セルロースのエステル化合物を利用したウラン・プルトニウム乾固物のコーティングという新しい手法により,標準物質としての長期安定性が確保された。両元素の濃度及び同位体比を値付けした認証標準物質として入手が可能である。

  セルロース化合物をコーティング剤としたウラン・プルトニウム分析用標準物質の開発

(核燃料サイクル開発機構・EC-JRC-IRMM1)○駿河谷直樹, 佐藤宗一, 雛哲郎,
檜山敏明,
A. Alonso1, R. Eykens1, F. Hendrickx1, F. Kehoe1, H. Kuhn1,
A. Verbruggen1, R. Wellum1

                 [連絡者:駿河谷直樹, 電話:029-282-1111(代) ]


 使用済核燃料再処理施設におけるウラン及びプルトニウムの定量分析は、核物質の計量管理及び保障措置上の観点から、内外より高い精度が求められている。そのため、核燃料サイクル開発機構では、これらの分析法として、最も高精度の分析法である同位体希釈質量分析法(IDMS)を採用している。本法において、ウラン及びプルトニウム分析の高度化を図るためには、その分析手法の基準となる標準試料(スパイク)の安定性の向上が不可欠である。これまで使用してきたウラン及びプルトニウムのスパイクは、金属の標準試料を硝酸に溶解し、これをバイアル瓶に分取した後、加熱乾固させ瓶底に固着したものであった。しかしながら、この乾固物は、物理・化学的安定性に乏しく、時間の経過とともに試料の剥離が起こり、標準物質としての健全性を担保できる期間は、スパイクの輸送時等の耐衝撃性も考慮して調製後半年に限られていた。
 本研究は、このスパイクを長期に亘り安定化できるよう、セルロース化合物のコーティング機能に着目し、ウラン・プルトニウム乾固物への適用を試みたものである。使用したセルロース化合物は、特に吸水性が低いとされるセルロース分子中のヒドロキシル基の水素が、アセチル基(CH3CO)とブチリル基 (C3H7CO) に置換した、エステルタイプのCellulose Acetate Butyrate(CAB)を選択した。本研究において、CABのアセトン溶液をウラン・プルトニウムの乾固物に添加した後、アセトンを蒸発させるといった、簡便な方法で試料コーティングが可能であることを確認した。また、調製したスパイクが、IDMSの前処理として行う、ウラン・プルトニウムの化学分離及び質量分析計による測定において妨害するかを確認するための確証試験を行った。

その結果、分析値と調製時データから算出される期待値との間に有意な差はなく、また、実用上重要な溶解性についても良好であり、CAB添加による化学分離及び測定への影響はないことが明らかとなった。更に、本試料を調製後、約1年を経過したものについて外観上の変化はなく、確認分析を行った結果も調製時の値と有意差はなかった。以上の試験結果から、このスパイクは、標準物質としての長期安定性が十分に期待できるものである。本標準物質は、度量衡学的データ及び確認分析の結果を基に235U及び 239Puの濃度/同位対比を値付けし認証標準物質としてEC-JRC-IRMM (European Commission, Joint Research center, Institute for Reference Materials and Measurements)にて入手が可能である。