スクリーン滴定法へのアプローチ
(金沢大理)○影沢慎治・松本 健 [連絡者:松本 健,電話:076-264-5693]
古典的な滴定法は,化学反応に基づいた信頼性の高い方法であり,簡単な器具と操作によって短時間に精度良く正確な分析が行える利点がある。現在,滴定法は教育現場から高度な研究開発の場においても広く使用されているが,多くの滴定は指示薬の変色を分析者が目視によって判別するため,変色が不明瞭な場合には分析者によって誤差を生じる問題がある。
指示薬の変色を簡単な方法によって個人差なく確認できれば,より経済的で正確簡便な分析法として多くの分野で活用されるものと期待される。我々の目は,物質に吸収された光の補色(余色)を被検体の色として認識しているので,吸収光に相当する色フィルターをスクリーンとして用い,補色をこのスクリーンに通して見れば,被検体の真の変色を鋭敏に感知できると考えた。
本研究では,透明なカラーパラフィン紙(5×5cm)を滴定容器と分析者の間に設置して,カラーパラフィン紙を通して指示薬の変色を目視で観察したところ,滴定終点における変色が鮮明に判別できることを新たに見出した。例えば,酸‐塩基滴定に用いるメチルオレンジは,黄色(pH>4)から赤橙色(pH=3.8),さらに赤色(pH<3.5)に変色するが,中和点における赤橙色(pH=3.8)を正確に検知することは経験豊かな分析者でも困難である。そこで,スクリーンとして青色パラフィン紙を使用すると終点付近の変色が鮮明となり,中和点をはっきりと検知できるようになった。従来法に比べて滴定値のバラツキが小さく,精度は0.075% であった(従来法:0.20%)。適切なカラーパラフィン紙を用いて,この新規なスクリーン滴定法を酸化還元滴定,沈殿滴定,キレート滴定に適用したところ,経験の少ない分析者でも容易に行え,高精度な滴定法として実用できることが確かめられた。
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