◆医療・生命◆  ミトコンドリア内のタンパク質を同定する
            新しい探査分子の開発


 人の細胞中に存在するミトコンドリアは,細胞のエネルギーを作る仕事をして,人が生きるうえでとても大切な役割を担っている。ミトコンドリアの働きがわるくなると,脳や筋肉などにいろいろな障害が出てくるためミトコンドリア中のタンパク質を調べることは,それにかかわる病気を解明するために非常に重要である。しかし,細胞の中には様々なタンパク質が存在するため,これまでの方法では他の器官のタンパク質も一緒にとらえてしまうという問題があった。本研究で開発したプローブ(探査分子)により,ミトコンドリア中のタンパク質を確実に高速でとらえることができた。

     ミトコンドリア局在蛋白質を同定する蛍光プローブ分子の開発

   (東大院理,科技団・CREST)○小澤岳昌,佐古佑介,佐藤守俊,梅澤喜夫 
                    [連絡者:梅澤喜夫,電話:03-5841-4351]


ミトコンドリアは真核細胞のエネルギーを代謝する細胞内小器官であり,ミトコンドリア局在蛋白質は細胞内で発現する全蛋白質の2〜5%と推測されている.その個々の蛋白質の同定はミトコンドリアの機能やミトコンドリア病を解明する上で非常に重要である.これまでにミトコンドリア蛋白質を同定する方法として,ミトコンドリアを遠心分離した後二次元電気泳動と質量分析機を組み合わせ同定する方法(プロテオーム)が試みられている.しかし,細胞からミトコンドリアを完全に分離することは難しく,サイトゾルやミトコンドリア以外のオルガネラに存在する蛋白質も数多く同定してしまう問題点を抱えている.
我々は,蛋白質がミトコンドリアに輸送されるとミトコンドリア内で緑色蛍光蛋白質(GFP)が形成される新規プローブ分子を開発した.原理を下図に示した.二分したGFP各々に蛋白質の組み継ぎ反応を誘起する特殊な蛋白質(DnaE)を連結する.C末側のプローブ分子をミトコンドリア内に局在化させる.分析対象とする蛋白質をN末側のプローブ分子に連結する.蛋白質がミトコンドリアに輸送されるとDnaE蛋白質同士が折り畳まれ組み継ぎ反応を起こす.その結果,ミトコンドリア内で緑色蛍光蛋白質が形成され,510nmの蛍光極大を示す.N末側のプローブ分子にミトコンドリア輸送に関与するシグナルペプチドを連結すると,細胞が蛍光性になりミトコンドリア内でGFPが形成されることを見いだした.次にこのプローブ分子の遺伝子に未知の蛋白質をコードする遺伝子を連結し細胞内で発現させた.蛍光性の細胞を回収し遺伝子解析を行ったところ,既知のミトコ
ンドリア蛋白質に加えこれまでに11種の新規ミトコンドリア蛋白質を同定することに成功した.このプローブ分子は,ミトコンドリア蛋白質を選択的に確度良く高速に検出する新規プローブとなることを明らかにした.開発した方法はペルオキシソームやゴルジ体等他の細胞内オルガネラにも応用可能な一般性を有している.