◆医療・生命◆  微小センシングデバイスを用いた
         環境ホルモンの神経細胞への影響評価

 トリブチルスズなどの有機スズ化合物は内分泌撹乱作用があるといわれ,貝類への影響が報告されている。神経細胞においても10〜12時間後に細胞死を引き起こす。本研究では,このような細胞毒性のメカニズムを明らかにするため,マイクロマシン技術を用いて微小センシングデバイスを作製した。マイクロ流路内に複数の物質を同時に測定するための酵素電極を集積し,細胞から放出される分子のリアルタイム計測を行った。従来細胞死を引き起こすと報告されている濃度よりも2けた低い濃度で細胞に影響があることが分かった。

      グルタミン酸/過酸化水素センシングデバイスを用いた脳神経細胞への
          環境ホルモンの影響測定

          (NTTマイクロシステムインテグレーション研1、NTT-AT2、NTT物性基礎研3
                           ○丹羽 修1、栗田僚二2、林 勝義1、鳥光慶一3
                            [連絡者、丹羽 修,電話0462−40−3517]

 環境ホルモンは、動物や魚介類の生殖系をかく乱する物質として、その河川や海洋での分布や生体影響が研究されている。近年、環境ホルモンは、生殖細胞のみならず、免疫系や脳神経系への影響が報告されている。船の船底塗料などに多用されてきたトリプチルスズなどの有機スズ化合物は、貝類などへの影響が報告されている。一方、ラット海馬などの細胞が数uM程度のトリプチルスズに暴露されることにより、連続的な細胞内カルシウム濃度の増加が観測され、10、12時間後に多くの神経細胞が細胞死(アポトーシス)を引き起こすことが報告されている。
 本研究ではこのメカニズムを理解するためにマイクロマシン技術で作製したマイクロセンシングデバイスを用いた。マイクロ流路内に複数の物質を同時に測定できる微小酵素電極を複数集積化したチップを用い、ラットの大脳皮質培養神経細胞の近傍から、連続的に細胞近傍の溶液をチップ内に導入し、細胞から放出される分子の濃度をリアルタイム計測した。その結果、トリプチルスズの存在下では、グルタミン酸と過酸化水素の放出が起こっていることが分かった。更にこの放出は、通常の細胞間情報伝達の時に観測される一過的な放出でなく連続的な放出であること、従来細胞死が報告された濃度より約2桁低い10nMの濃度でも観測され、極微量濃度でも神経細胞に影響があることが分かった。これらの結果より、マイクロセンシングデバイスは環境中の分子の生体影響を調べる手段として有効であることが確認された。