◆医療・生命◆ がんの成長を抑制するシスプラチンの
            血清中の化学形態は


 シスプラチンは,がんの成長を抑制する働きがあるが,制がん作用機構については未解明な点が多い。又,強い腎毒性が臨床応用における問題点として指摘されている。本研究では,著者らが独自に開発した胆汁酸被膜固定相HPLCとICP-MSを結合した複合分析システムを用いて,血清中シスプラチンの化学種の分離同定を行っている。シスプラチンはアルブミン等のタンパク質と速やかに結合するとともに,システインやアミノ酸とも結合することが判明し,この研究を進めることにより,制がん活性機構の解明や腎毒性の軽減につながることが期待される。

            両性界面活性剤被覆固定相HPLC / ICP-MSを用いた
            血清中シスプラチンの化学形態別分析

        (名大院工)○永田 瞳・長谷川拓也・松浦博孝・伊藤彰英・原口紘き
                      [連絡者:永田 瞳,電話:052-789-5288]

 シスプラチン(cisplatin ; cis-diamminedichloroplatinum(II): [Pt(NH3)2Cl2]: CDDP)は、1965年にアメリカのローゼンバーグが偶然発見した白金を含む簡単な化合物で、がんの成長を抑制する働きがある。静脈注射されたシスプラチンは血清中で化学形態を変え、最終的には血清中の輸送タンパク質であるアルブミンと結合して体内臓器中に運ばれる。その結果、がん腫瘍を有する臓器においてシスプラチンはがん細胞のDNAと結合することにより、がん細胞の増殖を抑制していると考えられている。しかし、シスプラチンの体内動態と制がん作用機構については未解明な点が多い。また、強い腎毒性が臨床応用における問題点として指摘されている。
 本研究では、我々の研究室で独自に開発した胆汁酸被覆固定相HPLCとICP-MSを結合した複合分析システムを用いて、血清中シスプラチンの化学種の分離検出を行った。シスプラチンは水溶液中で塩化物イオンが容易に離脱し、種々の加水分解型錯体を生成することが示唆されているが、本分析法を用いて経時変化を測定した結果から、これらの化学種を分離し、同定することができた。また、ヒト血清にシスプラチンを添加した場合、シスプラチンはアルブミンなどのタンパク質と速やかに結合するとともに、アミノ酸(システイン)などとも結合することも確認された。さらに研究を進めることにより、制がん活性発現機構の解明や腎毒性の軽減につながることが期待される。