◆生活文化・    乳及び乳製品の新しい効能を探るには
 エネルギー◆


 共役リノール酸(CLA)と呼ばれる脂肪酸に発がん抑制作用や抗肥満作用があることから,医学や栄養学の分野で話題となっている。しかし,CLAの高感度分析法はこれまでなかった。本研究では,乳及び乳製品中のCLAなどの脂肪酸に特殊な分子を作用させて,CLAが蛍光を発するようにした。これとクロマトグラフィーと呼ばれる分離法を組み合わせることにより,CLAなどの複数の脂肪酸を高感度で分離・分析できるようになった。本法は,乳及び乳製品に限らず,様々な試料中に含まれるCLAを分析できるため,広い応用が期待される。

            蛍光検出HPLCによる乳製品中の共役脂肪酸の分析

    (道立衛研・北大院水産・東北区水産研)○西村 一彦1,2・板橋 豊・宮下 和夫
                                      鈴木 敏之・桂 英二
                            [連絡先:西村一彦,電話:011-747-2732]

 反芻動物由来の脂質やある種の植物種子には,分子中に共役型二重結合を有する特異な脂肪酸(共役脂肪酸)が存在するが,必須脂肪酸としての効果が無いことや食品中では微量成分であることなどから,これまであまり注目されることはなかった。しかし、近年共役リノール酸(CLA)に発ガン抑制作用や抗肥満効果などの生理活性が認められたことから,共役脂肪酸に関する研究が医学,栄養学,そして分析化学の観点から活発に行なわれるようになった。
 乳及び乳製品中のCLA含量は乳の生産地や生産時期、加工法などによって変動する。したがって,CLA含量を正確に測定することは乳及び乳製品中のCLAの効果を正しく評価する上で重要である。従来、油脂中のCLA含量はCLAの有するUV吸収を利用してHPLCや分光光度法により求められているが,これらの方法では,試料が少なく限られた量しか入手できない場合,微量のCLAを定量することは困難である。また,CLA以外の脂肪酸を正しく定量し,その組成を求めることは難しい。
 本研究では、乳及び乳製品中の脂肪酸を9-アンスリルジアゾメタン(ADAM)と反応させて蛍光誘導体を調製し,これを蛍光検出HPLC (C18カラム,150x3 mm i.d.,水‐メタノールのグラジエント溶出)で分析して,CLA含量と脂肪酸組成を同時に求める高感度分析法を確立した。乳中のCLAは9-cis,11-trans-18:2と7-trans, 9-cis-18:2の混合物であることが知られているが,本研究ではこれらは単一のピークとして溶出し,他の主要脂肪酸成分(約16種類)からは良好に分離された。したがって,一度のHPLC分析により,乳及び乳製品中のCLA含量と脂肪酸組成を容易に求めることができた。その結果得られたCLA含量は,牛乳で2.0 mg/ml,バターで4.0 mg/g,チーズで5.7 mg/gであった。また,全脂肪酸中に占めるCLAの割合は,牛乳で0.9%,バターで1.4%,チーズで2.5%であった。本法は乳及び乳製品中のCLAばかりでなく,精製食用油や加工油脂及び生物試料に微量存在するCLAの分析に広く適用できると考えられる。