鉄制限下における植物プランクトンの鉄取り込み機構の解析
(金沢大工)○水本英伸・長谷川 浩・奥村真子・牧 輝弥・上田一正
[連絡者:長谷川 浩,電話:076-234-4792]
将来の気候変動を回避するために、地球温暖化問題解決に向けた様々な試みが模索されている。京都議定書にみられるように、現段階における地球温暖化対策の最大の論点は、CO2の排出削減である。しかしながら、化石燃料を主なエネルギー源として消費する限り、確実に大気中のCO2量は増加する。今後、化石燃料に代わる代替エネルギーが開発されるまでの間、地球表層の物質循環サイクルからCO2を除去・固定することが大きな課題となるにちがいない。
地球全体を一つの反応系と捉えると、地球表面の約2/3を占める海洋に炭素が移動すれば、大気中CO2は減少するはずである。この手段として注目されているのが、鉄の散布である。南極海、アラスカ湾、北太平洋赤道域などの海域では、わずかな鉄が不足しているために植物プランクトンの増殖が抑えられている。ここに鉄を加えて植物プランクトンの繁殖を活発にすると、光合成のために海洋は大気からCO2を吸収する。この生物の死骸が深海まで沈めば、炭素は数千年間は大気に戻ってくることはない(右下図)。仮に、100%の効率でこのシステムが働けば大気中二酸化炭素を氷河時代まで減少させることも可能であるが、現実にはプランクトンの鉄の利用度は低く、その他にも解決すべき多くの課題が残されている。
そこで本研究では、海洋への炭素固定を目指したプロジェクトの一環として、植物プランクトンの増殖に適した有機鉄化合物の探索と解析を行った。人工海水より調整した培養液に鉄の供給源として有機鉄化合物を添加し、化学的分別法によりプランクトン中の鉄の存在状態と取り込み速度を解析した結果、有機鉄化合物の化学的性質の中にプランクトンの増殖促進に重要な因子を見い出した。即ち、有機鉄化合物を構成する有機配位子のFe3+, Mg2+, Ca2+に対する錯生成能力である。この効果はプランクトン種によって異なることから、CO2固定に有用な植物プランクトンのみの生長を選択的に促進する技術につながる。本研究は、沿岸での赤潮発生の防除、海洋の砂漠化対策においても意義をもっている。
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