◆環境・防災◆     新たな毒性物質である残留性
          有機フッ素化合物による環境汚染状況


 近年, PFOS(perfluorooctane sulfonate)関連物質がPCBやダイオキシン等と同様に強い毒性を有し,全地球規模で野生動物や労働者の体内に高濃度に残留していることが明らかになりつつある。精度のよいHPLC-MS/MS分析により全国沿岸域の海水,魚中のPFOS濃度を一斉調査したところ,東京湾の魚の血液中濃度は30〜558ppbで,PCBと同程度,ダイオキシンの1万倍の濃度であった。この結果は,国内でも広範囲にPFOS関連物質による環境汚染が進んでいることを示しており,生物濃縮現象の解明が今後の課題である。
国内環境水及び生物中のperfluorooctane sulfonate (PFOS) 関連物質分析と汚染状況の解明

  (産総研・ミシガン州立大*)○堀井勇一・谷保佐知・Kuranthachalam Kannan*・山下信義
                          「連絡者 : 山下信義, 電話(代表) 0298-61-9043」
従来、フロンに代表される揮発性フッ素化合物に関しては膨大な数の研究がなされてきたが、半揮発性の残留性有機フッ素化合物に関する研究は現在まで皆無に近い。その盲点をついて1999年に、国際的事件となったのが、いわゆるPFOS(perfluorooctane sulfonate、パーフルオロオクタンスルホン酸塩)関連物質である。PFOSはフッ素を含んだ薬品であり、これからフッ素系のコーティング剤・界面活性剤・難燃剤等の関連化合物が合成され、多用途に莫大な量が使用されている。しかし、PFOS関連物質が強い毒性を有し、全地球規模で野生動物や労働者の体内に高濃度に残留している事が明らかになったため「21世紀のPCB」として国際的に大きな注目を集め、環境汚染・人体暴露状況の解明が急務となっている。本研究では、精度の高いPFOS関連物質分析法を開発、全国沿岸域の一斉調査(海水・魚)を行い、残留状況・生物蓄積性を評価した。海水、魚類血液、肝臓試料はイオンペア抽出法を適用し、HPLC-MS/MSを用いて測定した。検出感度は注入溶液としてPFOSが50ppb、PFHSとPFBSは100ppbで測定できることを確認した。また、低濃度試料については高分解能HPLC-MS/MSを用いて再現性を確認した。
 調査の結果、東京湾の魚全てから血液中濃度30〜558ppb、肝臓中濃度2〜448ppbの範囲でPFOSが検出され、PFHSも低濃度ながら一部検出された。これらの濃度はPCBと同程度であり、ダイオキシンよりも1万倍以上高濃度であった。また、魚血液中濃度は人血液よりも10倍以上高く、ダイオキシン類とは異なった生物濃縮メカニズムを有することが判明した。また、東京湾海水中PFOS濃度は17〜87ppbであり、PCBやダイオキシン類とは桁違いに高濃度であった。海水中平均濃度を42ppbとして生物濃縮係数(BCF)を算出したところ、魚種ごとに異なるが713〜13,214の範囲であり、実験系で測定されているBCF値と実環境試料とが一致することを世界で初めて確認した。
本研究結果より魚類、表層海水等から有意な濃度でPFOS関連物質が検出され、PFOS関連物質による環境汚染が国内でも広範囲に生じていることが明らかとなった。次の検討課題は、いわゆるPOPsとは異なると推察されるPFOS関連化合物の生物濃縮現象の解明である。