◆環境・防災◆   ダイオキシン類を特異的に検出できる
              新しいバイオセンサー
           

 ダイオキシン類は廃棄物や農薬等から副次的に発生することが明らかになっており,その迅速な分析法の開発が望まれている。本研究は,それにこたえる方法の開発である。ダイオキシンは細胞内部へ進入した後,受容体タンパク質であるダイオキシンレセプター(AhR)と結合する。この性質を利用して開発した新しいバイオセンサーは,ヒトの細胞から取り出したAhR遺伝子を操作した組み替えAhRを電極上に固定化したものである。これにダイオキシン類を作用させると,電極表面上でレセプターと結合し,その変化を電気化学的に捕そくする。本法は環境モニタリングに用いることができる。

            転写因子を認識素子とするダイオキシンセンサの開発

(九大院工1・福島医大2)○権田初美1・福間香織1・片山佳樹1・前田瑞夫1・錫谷達夫2・村田正治1
               【連絡者; 村田正治, TEL: 092-642-4206, FAX: 092-642-3606】

 現在流通している化学物質はおよそ87,000種類と言われており、その数は今後ますます増加し続けることが確実である。環境ホルモン(内分泌撹乱物質)と呼ばれる新しい概念に基づく環境汚染物質が報告されて以来、これまで有用な工業原料として活用されてきた化学物質の中にも体内で毒性を示す危険性をもつものが指摘されており、早急な実態調査が必要となっている。その話題の中心となっているものは、体内で女性ホルモンと似た作用をすることが疑われているビスフェノールAやノニルフェノールなどエストロゲン様作動性物質であり、もう一つがダイオキシン類である。これらの物質は細胞内部へ侵入した後、受容体タンパク質と結合することによって様々な健康障害を引き起こすものと考えられており、主としてエストロゲン様作動性物質は女性ホルモンレセプターと、またダイオキシン類はいわゆるダイオキシンレセプター(AhR)と結合することが明らかとなっている。言い換えればこれらのレセプタータンパク質と結合する化学物質を迅速、かつ簡便に検査することができれば、膨大な種類の化学物質の健康リスクを短期間に調査することが可能となる。
 そこで本研究において、我々はダイオキシン類を特異的に検出できる新しいバイオセンサの開発を行った。このセンサはヒトの細胞から取り出したAhR遺伝子を操作し、それを大腸菌から大量合成することによって得た組み換えAhRを電極上(直径3mm)に固定化したものである。これにダイオキシン類を作用させると電極表面上でレセプターと結合し、その変化を電気化学的に捕捉することができる。ダイオキシン類は廃棄物や農薬等から副次的に発生することが明らかとなっており、本法はその環境モニタリング法としての応用が可能である。またダイオキシン類と同様、AhRに結合する未知の物質(たとえば多環芳香族炭化水素など)を探索することによって化学物質との適切なリスクコミュニケーションの実現を目指している。
 なお本研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からのご援助によってなされたことを記し、ここに感謝の意を表します。

ダイオキシンセンサの概念図