◆環境・防災◆  人工湿地を利用して金属汚染水の浄化をはかる

 工事現場や鉱山近辺の土壌による水の汚染は深刻な問題であるが,根本的な環境修復には経済的な負担も大きい。この問題に関しては,自然の浄化作用に基づく環境修復法に大きな期待が寄せられているが,どのような経路や化学現象を通して浄化が進むかは明らかにされていない。本研究では,葦産生人工湿地において,酸性水中のマンガン,鉄,銅,亜鉛などの重金属がどのようにして除去されるかを約1年間にわたって追跡し,その除去ルートを明らかにした。自然と共生した環境修復法を確立するための基礎データとして重要な結果が得られた。

             人工湿地における重金属の固定形態と除去ルート

(小樽商大・道立地質研1)○笹木圭子, 荻野 激1 [連絡者:笹木圭子, 電話:0134-27-5417]

 近年、さまざまな汚染水を湿地により浄化する新しい環境修復法が注目を集めている。本研究では、ダムの工事現場から発生した高濃度マンガン含有酸性水を処理するために、葦を植え込んだ人工湿地を建設し、約1年間にかけて水質・水量および湿地内部土壌の変化を追跡するとともに、湿地土壌に蓄積された重金属の固定形態、葦に取り込まれた重金属の部位別特徴、重金属の除去ルートについて調べた。
導入された酸性水は湿地を通る前後において、マンガンイオンの流出量は流入量を下回っており、何らかの除去ルートがあることを示唆していた。湿地土壌中のマンガンの化学形態別分析からは、酸性水導入前には酸化物に結合しているタイプがほとんどであったが、導入後約半年後の春には上流部分で酸化物に結合しているタイプが減り、それにかわってもっと弱い結合型であるイオン交換タイプが増大した。さらに夏には、湿地全域に渡ってイオン交換タイプが増大した。土壌に酸性水が触れることにより、酸化物結合型のマンガンイオンがいったん溶出し、その後イオン交換型マンガンとして土壌成分に固着したと考えられる。また、植物の分析結果から、葦の葉に特徴的にマンガンの吸収が認められたことから、一部は植物体内への移行が考えられる。鉄の湿地土壌への固定形態についても同様に検討したところ、春から夏にかけて、酸化物結合型のものが減少しているのがわかった。その他の重金属も酸化物結合型の減少が認められたことから、いずれの重金属も一部の酸化物結合型は溶解しないまま系外へ流出したことが推定される。

湿地土壌中の銅の形態別分析からは、酸性水導入前の土壌には銅はほとんど含まれていなかったが、酸性水導入後の春には酸化物結合型をはじめとして若干の蓄積が認められ、夏には、有機物結合型の銅が著しく増大した。このことは、春から夏にむかって気温が上昇し土壌微生物による土壌有機物分解が活発となり、生成した低分子有機物と銅との錯形成が促進されたものと考えられる。夏に採取した葦の根の部分には、銅の蓄積が特異的にみられ、土壌水の中で低分子有機物が電解質としての振る舞いをして銅を植物体内に輸送したと考えられる。