◆生活文化・エネルギー◆  焼き魚中の発がん性物質を評価
 肉や魚を焼いてできた焦げの部分には,ヘテロサイクリックアミンと呼ばれる強力な変異原物質ができている。この物質は,遺伝子に傷を付けて突然変異を起こすことから,発がん性を有するといわれている。本研究では,ヘテロサイクリックアミンを選択的かつ高感度に分析する方法を開発し,これを用いて焼魚,焼鳥,焼肉などに含まれるヘテロサイクリックアミンを測定した。その結果は,日本人のヘテロサイクリックアミン摂取量を推定し,食習慣と発がんリスクの関係を評価するための指標となることが期待される。
【3P2−03】    焼魚に含まれる発がん性ヘテロサイクリックアミンの分析

(岡山大・薬,国立がんセンター1) ○西岡佐知子・片岡洋行・成松鎮雄・小林実夏1・花岡友之1・津金昌一郎1
[連絡者:片岡洋行,電話:086-251-7943]
 ヘテロサイクリックアミンは,肉や魚などの蛋白質を多く含む食品を加熱調理した時,その焦げの部分にできる極めて強力な変異原物質(遺伝子に傷をつけて突然変異を起こす)であり,その変異原性は代表的な発がん物質であるアフラトキシンやベンゾ(a)ピレンに匹敵する。これまでに23種のヘテロサイクリックアミンが見つかっており,そのいくつかはラット,マウス,サルなどにおいて発がん性を示すことが報告されている。一方,疫学調査により焦げを多く摂取すると発がんリスクが高くなることが指摘されているが,ヘテロサイクリックアミンが直接ヒトの発がんの原因になっているかどうかについては十分明らかにされていない。従って,一日にどのくらいヘテロサイクリックアミンを摂取しているかを明らかにすることは,発がんリスクを評価するために非常に重要である。
そこで本研究では,まずヘテロサイクリックアミンが複数の窒素原子を含む多環性芳香族化合物であることに着目して,窒素選択検出ガスクロマトグラフィー(NPD-GC)により選択的かつ高感度に分析する方法を開発し,焼魚や焼肉に含まれるヘテロサイクリックアミン含量を測定した。通常の調理法で焼いた魚や肉は,皮や身の部分に分け,塩酸溶液で抽出し,中和後変異原物質を特異的に吸着するブルーレーヨンで吸着濃縮し,揮発性の誘導体へ変換してNPD-GC分析した。本法を用いると,食品1g
当たりナノグラム (1/109 g)レベルの微量のヘテロサイクリックアミンを短時間に検出定量できた。次に,日本人が日常よく摂取するさんま,いわし,あじ,さば,うなぎなど7種類の焼魚及び焼鳥,焼肉などを分析したところ,100〜6000 pg/gの高濃度のPhIPが検出され,特に,焦げた部分が多い魚の皮には身よりも2〜20倍多く含まれていることがわかった。また,Trp-P-1, MeIQ, MeIQx,なども検出され,焼肉よりも焼魚に多く含まれていることがわかった。現在,日本の各地域における食物の摂取頻度を調査中であり,今回の分析結果が日本人のヘテロサイクリックアミン摂取量の推定に利用でき,食習慣と発がんリスクを評価するための有効な指標になるものと期待される。