◆新素材・先端技術◆テロ対策 犬の嗅覚にかわる爆発物の新しい検知方法
 現在,空港の手荷物検査での化学物質の検出は,犬の嗅覚に頼る方法が採られている。これを客観的にかつ迅速な方法に置き換えようという動きがある。爆発物から生じる微量な蒸気を,加熱や濃縮といった前処理を一切行わずに,2〜3秒で検出することができる技術を新たに開発した。爆発物探知のために改良を加えた質量分析計を基本とした装置である。まだ,研究室レベルでの検討段階であるが,今後は手荷物検査場など現場での使用を前提に検討を行い,実用化の方向を探る予定である。
【3P1−70】    大気圧化学イオン化質量分析法を用いた爆発物の探知

(日立中研・科警研)高田安章・○永野久志・和気 泉・中村 順
[報道関係連絡先:日立中研企画室、担当:内田・木下、電話:042-327-7777]
 冷戦終結後、新しい国際秩序が模索される中で、今まで封印されてきた民族紛争などが顕在化している。これに伴い、弱者の戦争とされるテロリズムの脅威が世界的に増加している。特に、共産圏の崩壊、インターネットの普及などにより、軍によって管理されてきた軍用爆薬の不正取り引きが横行し、爆弾、薬物などの禁制品が一般市民にとっても身近な物となってしまった。このため、爆弾の持ち込みを直前で阻止するための「水際セキュリティ」の重要度が増している。
 空港の手荷物検査などでは、X線探知装置による形状のチェック(バルク検出)が主流である。一方、化学物質検出の視点では、犬の嗅覚に頼る方法が取られていた。しかしながら、犬による官能試験では、犬の体調や集中力に依るところが大きく、長時間は探知できない上に能力を正確に把握するのは不可能である。そこで、犬が行ってきた「匂い検査」を、ガスの化学分析に置き換える動きが広がっている。この様な機器分析に基づく検出はトレース検出と呼ばれる。バルク検出とトレース検出は相補的な技術であるため、バルクとトレースを組み合わせた探知が望まれている。
 本研究では、排ガス中のダイオキシン関連物質のリアルタイム計測技術を基に、爆薬蒸気の検出感度を高めるための新型イオン源を搭載した爆発物探知用の質量分析計を開発した。この装置は、探知で非常に重要となるスピード、感度、選択性を全て有している。研究室レベルの検討では、ヘキソーゲン(プラスチック爆弾の主剤)などの高性能爆薬を、世界で初めて加熱や濃縮といった前処理を行わずに2〜3秒で検出することに成功した。今後は、探知器が設置される現場での評価、爆薬のデータベースの充実、警備担当者にとって使いやすいソフトウエアの開発などを行い、実用化を目指す。