◆生活文化・エネルギー◆   酸性雨が銅製建造物を溶かす
 酸性雨がもたらす影響の一つとして,建造物や文化財で使用されている金属製部材の損傷が懸念される。本研究では,銅製屋根が酸性雨の暴露により溶解する現象について,銅製モデル屋根と銅製屋根を有する実際の寺院の2箇所で,酸性雨の化学的性質と銅イオンの溶出との関係を調べた。雨水のpH(水素イオン濃度)が低くなるほど銅の溶解量は増加する傾向にあり,屋根には,時間経過と共に成長する腐食生成物が見られた。人工酸性雨による金属銅の溶解実験では,硝酸系,硫酸系,塩酸系の中で,塩酸系の溶解の程度が著しく大きいことが分かった。
【3P1-02】     酸性雨による銅製建造物の溶解に関する研究

(福岡女子大人間環境・九大院理*)〇田中筆子・竹内美恵・矢野直美・合原 眞・  
   横山拓史*・岡上吉広*[連絡者:合原 眞、電話:092-661-2411]
 酸性雨の建造物や文化財への影響に関する研究は、それらの材質、形状や雨の性質など多くの面から検討する必要がある。今回は銅製屋根の溶解について、研究サイトを
 ・銅製モデル屋根:福岡女子大学(福岡市)に設置した90cm x 90cmの銅製モデル屋根
 ・銅製の屋根をもつ寺院:福岡市南方約50Kmの田園地帯にあり、酸性雨による銅溶解とその溶解した銅による植物(つげ)の葉の損傷が観測された地点(写真(1)参照)
の2箇所とした。酸性雨の性質と屋根からの銅イオンの溶出との関係を調べ、銅の溶出に対する雨水中のイオンの影響、溶解反応機構などを検討した。
 当該地域に降る酸性雨の性質を明らかにするために、雨水および屋根を流れた雨水を採取し、pH、イオン濃度などの化学的性質および 屋根を流れた雨水の銅濃度を観測した。過去2年間に観測した雨水の約70%は酸性雨にあたる5.6以下のpHを示した。銅製屋根から溶出した銅の量とpHおよび含まれるイオンの関係を詳細に検討した。溶解した銅イオンの濃度はpHが低いほど多くなる傾向があり、雨水中の陰イオン量と相関関係が見られた。銅製屋根上に生成した腐食生成物を電子プローブ・マイクロアナライザー(EPMA)で分析したところ、S 、Clなどの成分が検出され、時間の経過とともに腐食生成物の成長が見られた。硝酸系、硫酸系、塩酸系の人工酸性雨による金属銅の溶解の実験を行っているが、塩酸系における銅溶解の程度は著しく大きいことが判った。銅に対する塩素化合物の作用は進行性の錆の生成を促進していると考えられる。
 以上、金属銅が溶けるタイプの酸性雨被害であるが、本研究ではその機構、溶解速度を見積もることを目指している。また予備実験で行った銅製屋根の軒下にあたる土壌中の銅の濃度は60μg/土壌1gで通常土壌より約2倍の量であった。土壌中の銅の形態、挙動を今後検討する予定である。
写真(1) 銅製の屋根(A)と溶出した銅による植物の損傷(B)