◆ 生活文化・エネルギー◆  太陽風の組成から太陽系の起源を探る
 太陽風は,太陽から吹き出す物質(イオン)の流れで,その組成は太陽の組成を反映する。つまり,太陽風の組成を調べれば,地球を含む太陽系の原料物質の組成が分かる。現在,NASAを中心として,この太陽風を捕獲してその組成を直接測定し,太陽系の起源を探ろうとする計画が進められている。本研究では,その準備として,超高純度シリコンの薄膜に太陽風由来で打ち込まれると予想される極微量元素30〜40が,中性子放射化分析法により100兆分の1グラム以下で定量可能であることを明らかにした。
【3J04】   中性子放射化分析による太陽風の元素組成の決定

(都立大院理・金沢大理)○海老原充・大浦泰嗣・永峯隆行・小村和久
[連絡者:海老原充、電話:0426-77-2553、電子メール:ebihara-mitsuru@c.metro-u.ac.jp]
 太陽風とは、太陽の表面から周辺に向かって放出されるプラズマ流である。米国NASAの宇宙探査計画(space mission program)による「Genesis」衛星は、この太陽風を宇宙空間で捕獲し、地球に持ち帰る使命を帯びて、本年8月8日にフロリダのケネディー宇宙基地から発射された。Genesisというニックネームは、「太陽系の起源を探る」という、この探査計画の目的を象徴するもので、太陽系の起源、成り立ち、生成環境をいろいろな角度から科学的に解明することを目的としている。我々はこの計画に参加を要請され、計画立案の段階から共同研究者(Co-Investigator; Co-I)として参画してきた。我々の目的は、太陽風の元素組成を中性子放射化分析法で分析することである。
 太陽系は今から46億年前に形成されたが、太陽風の元素組成からは太陽系を形成した原料物質(原始太陽星雲)の元素組成を知ることができる。かつて米国のアポロ月探査計画において、月面上で捕集した太陽風を地球に持ち帰って分析した例があるが、十分な成果は得られなかった。Genesis Missionでは地球と太陽の間の軌道に約2年間衛星を滞在させ、その間、いろいろな物質に太陽風を捕獲し、地球に持ち帰るもので、多くの元素で精度の良いデータが求められるものと期待される。
 元素分析には、中性子放射化分析法を用いる。中性子放射化分析法は研究用原子炉などの中性子源を利用して、感度良く元素を分析する方法で、環境試料、生物学的試料、宇宙・地球化学的試料などの分析に広く利用されている。Genesis探査計画立案段階の可能性試験(feasibility test)では、超高純度シリコンの薄膜に打ち込まれる太陽風由来の元素のうち、10-14 g以下の約30-40元素を定量することが可能であるとの結論を得た。中性子放射化分析法は繰り返し分析が許されない試料の分析では他に並ぶものがない高い信頼性を発揮する。今後の宇宙探査計画では、地球外物質を捕獲し、地球に持ち帰る、いわゆるsample return missionも多く計画されており。そのような地球外物質の研究で、中性子放射化分析法が大活躍することは間違いない。