◆新素材・先端技術◆ヒ ト の 個 性 を 色 で 見 分 け る
 ヒトゲノムの解析がほぼ終了し,今後は遺伝情報の個人差,すなわち,一塩基多型(SNP)の解析が重要となってくる。SNPは個人の薬剤に対する感受性,副作用の予測等,オーダーメイド医療のための基礎情報となる。異なる色をつけた超微粒子にDNAを固定化したものを数種類作製する。これら超微粒子の混合分散溶液にサンプルDNAを添加するとその塩基配列に依存して特定の微粒子同士が選択的に凝集する。結果として,検体に依存した色の凝集体が生成することになる。遺伝情報を色情報に変換する新しい方法論であり,簡便なSNP解析法として期待できる。
【3F25】   DNA修飾ナノスフェア間の特異的ネットワーク形成を利用した新規SNP解析法の開発 

(熊本大工)○近浦 靖・井原敏博・城 昭典[連絡者:井原敏博、電話:096−342−3873]

 ゲノム解析によりヒトの遺伝情報がほぼ明らかになった。次なるステップとして、今後は個人の遺伝情報の違い、即ち、「多型」の簡便かつ高効率な解析法の開発が重要になってくる。というのも、性格、能力、病気への罹りやすさ、薬への感受性などの個人差は全てこの多型に帰属されるからである。親在、この一塩基多型(SNP: Single nucleotide polymorphism)の解析に用いられている手法は一般性に欠け、少々繁雑で時間を要する。したがって、今後のオーダーメイド医療、予防医学の発展のためには、新しいSNP解析法の開発が望まれている。本法は以下に説明するようにスフェアの混合溶液にDNA試料を添加し、生ずる凝集体を通常の蛍光顕微鏡で観察するだけといういたって簡便な方法である。
 一本鎖DNAは相補的な相手と特異的に結合し、二重らせんを形成する。複数のDNA分子を共有結
合で固定化した微粒子は適当な条件下、この特異的相互作用によってネットワーク構造を形成するはずである。即ち、互いに異なる塩基配列のDNAをその表面に持つ幾つかのナノスフェアを調製する。これらのスフェアの混合溶液にDNA(一本鎖検体遺伝子)を加えるとその塩基配列に相補的なDNAを持つスフェアのみが選択約に擬集することが期待できる(図)。添加したDNAの塩基配列に変異があると擬集は起こらないか、または、異なったスフェアから成る凝集体が形成される。このとき、ナノスフェアとして様々な色素を含浸させたものを使用すると遺伝情報を溶液、あるいは競集体の色の変化として観察することが可能になる。
 用いたナノスフェアは、ポリステレンをベースとした直径約40nmの均一な球形である。内部には蛍光色素を含浸させてある。ここでは赤と緑の色素を有するスフェアを使用した。ガン遺伝子であるp53の一つのホットスポットを含む野生型と変異型の45量体のDNA試料を調製した。さらに野生型の両末端に相補的な2種のオリゴヌクレオチドをそれぞれ赤と緑のスフェアに固定化した。適当な条件下、これらスフェアの混合溶液に野生型DNAを添加すると黄色の凝集体が見られた。黄色は赤と緑の合成光である。一方、変異体を添加した系では、赤と緑のスフェアは互いに独立に凝集体を形成していることがわかった。
’蛍光顕微鏡観察は安価で非常に簡便な手法である。ここでは45量体の中の一塩基変異を見分けることができており、本法はSNP解析の新しい手法に発展する可能性を持つ。