◆ 生活文化・エネルギー◆  
     太古の海底堆積物の分析により海洋中の酸素濃度の変遷を追う

 過去の地球の歴史の中で,恐竜の絶滅をはじめ,生物の大量絶滅が繰り返し起きてきたが,原因が分からないものも多い。海洋中の酸素濃度の変化も,大量絶滅の原因のひとつと考えられるが,過去の海洋中の酸素濃度の推定は難しい。深海底で堆積してできた堆積岩(チャート)中の種々の元素濃度を調べることにより,堆積当時の海洋中の酸化還元状態,すなわち酸素濃度についての情報を得ることが期待できる。本研究では,中生代のチャートの分析を行い,三畳紀/ジュラ紀の境界において短期間に酸素濃度の変動が起きたことが見いだされた。
【3E10】  遠洋深海性層状チャート中の元素の定量及び状態分析:古海洋の環境変動の推定

(東大院理・東大院総合文化) ○清宮貴美子・松尾基之・磯崎行雄
[連絡者:松尾基之,電話:03-5454-6568]
 生物の歴史上で大量絶滅と呼ばれる事件が何回か起きている。その原因にはいくつかの説があり、恐竜の絶滅で知られる中生代/新生代境界の地球外天体衝突説は有名である。また最大規模の大量絶滅は古生代/中生代境界に起き、地球規模での酸素量の減少、酸素欠乏事件がその原因として挙げられている。古生代には現代に近い酸素量があったとされ、海水も通常の状態では十分な酸素量があったと推定される。豊富な酸素下で生存していた酸素呼吸動物にとって酸素量の変動は大きな影響があったはずである。よって生物史を考える上で地球規模での酸素濃度の変動を知ることは重要である。古海洋の酸化還元状態の情報を持つものとして海洋中央付近で堆積し、現在では日本などの大陸の端に見られる堆積岩のチャートがある。今回対象としたチャートは厚さ数cmの層が連続的に重なっており層毎に年代を追うことができる。また、チャートが堆積した遠洋深海は沿岸の局地的な影響を受けずに地球規模での環境を反映している。環境中の酸素濃度によって海水の酸化還元状態は変化し、海水中の元素が沈殿・溶解するが、これは元素毎に異なる酸化還元電位に応じて起こる。よってチャート中に含まれる微量元素の存在を調べることで古代の環境を評価できる。しかし古代の環境を完全に復元するのは難しく、一つの元素指標では変化の度合いは不明瞭である。そこで複数の元素を組み合わせることで酸化還元状態の程度を評価することにした。今回報告する三畳紀/ジュラ紀境界付近では古生代/中生代境界ほどではないが短期間に環境の変化があったことがわかった。表に示したように酸化還元状態の程度を分類して変化の程度についても見ることができた。