◆環境・防災◆  水中の環境ホルモンを磁石の力で除去
 環境ホルモンの環境への拡散の問題が深刻化しているが,現在の活性炭吸着法は,吸着させた活性炭が二次廃棄物となるため抜本的な解決策とは言い難い。本研究では,二次廃棄物の生じない大量処理技術として,超電導磁石を利用した分離・除去システムを開発した。疎水化処理した酸化鉄微粒子に環境ホルモンを吸着させて磁気分離した後,アルコールなどの溶媒で洗浄して微粒子を脱離させて再利用する。ノニルフェノール及びビスフェノールAの水溶液について,処理後の顕著な濃度減少と洗浄液への濃縮が見られ,二次廃棄物を出さない浄化及び濃縮が実証された。
【2P2-17】    超伝導磁石を用いた環境ホルモン除去磁気分離システムの開発
(筑波大院数理物質、いわて産業振興センター1、物質・材料研究機構2)○三橋和成、吉崎亮造、岡田秀彦1
小原健司2、和田 仁2 [連絡先:小原健司、電話:0298-59-5069]
 近年、外因性内分泌攪乱物質(環境ホルモン)の環境への拡散が、人類を含む生態系に悪影響を及ぼしていると推測されている。そして今年、世界で初めて環境省が、工業用洗剤の原料などに使われているノニルフェノール(NP)を、魚類に対する環境ホルモン作用物質であると認定した。さらにビスフェノールA(BPA)も疑わしい物質の一つである。これは、ポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂の原料として、大量に(世界中で約 170万トン、国内で約 35万トン)生産・消費されており製造工程や製品からの環境への拡散が問題視されている物質である。拡散防止には工場廃水の大量、高速かつ確実な分離・浄化技術が早急に必要である。
 現在、水中に含まれている環境ホルモンの除去には、活性炭吸着法が提案されている。しかし大量処理を行う場合、環境ホルモンを吸着した大量の使用済み活性炭が二次廃棄物となるため、根本的な環境浄化の観点からは問題が残る。
 そこで本研究では、二次廃棄物の生じない新しい大量処理技術の開発を目的とした。すなわち環境ホルモン含有水を浄化処理した後、そこで用いた吸着剤を再生して再利用を可能にする方式を目指した。我々は高勾配磁気分離システムの応用を念頭におき、環境ホルモンの磁気種付け用磁性材料の試作および実験を行った。本システムで使用した酸化物高温超伝導磁石は、電気さえあればどこでも運転できる。冷媒である液体ヘリウムが不要、軽重量、低電力消費の特長を持つからである。この特長に加えて40K以下という比較的高温で運転が可能であり、励・消磁を1分間という短時間で行え、運転効率が高く、システム構築が容易など多くの利点がある。
 ところで、環境ホルモン自身は反磁性であり、直接磁気分離ができないため、磁気的種付けを施す必要がある。そこで我々は、大部分の環境ホルモンが疎水性であることに着目。磁性酸化鉄微粒子表面に直鎖アルキル基を固定することにより疎水化処理し、疎水性相互作用で環境ホルモンを吸着させる手法とした。しかも、アルコールなどの有機溶媒で簡単にその微粒子表面から溶離できるので、再利用が可能である。
 実際に、試料にNPおよびBPA水溶液を用い、上記の微粒子を添加してビーカー試験を行ったところ、NPでは8.4ppmが、処理後、約1/10,000の濃度に、BPAは2.7ppmが1/10に減少した。また、大量処理実験では、BPA を70ppb含んだ76Lの希薄仮想汚染水に疎水化磁性酸化鉄微粒子を添加、15分間撹拌処理し、磁気分離したところ16ppbに減少した。更に、磁場を切って、この微粒子を回収し、少量のエタノールで洗浄したところ、洗浄液中へ約10倍に濃縮された。以上の実験で、大量の環境ホルモン汚染水を、二次廃棄物を出さずに浄化でき、高濃度に濃縮できることを実証した。
図:磁性酸化鉄微粒子の疎水化と環境ホルモン吸着の原理